ノンフィクション作家山根一眞さんが、「はやぶさ」がまだ「MUSES-C(ミューゼス・シー)」と呼ばれていたころからの取材をもとに書き上げた七年がかりの一冊。
入念な取材はもちろん、「JAXAはやぶさチーム」の方々に深く寄り添った文章は「なかのひと」でないとわからない心の動きまで伝えてくれる一冊。
随所に「はやぶさチーム」へのインタビューが収録されているのだけれど、その雰囲気は他の「はやぶさ」関連書籍とはかなり違う。著者の山根さんは打ち上げから七年も取材をしているわけで、もうほとんど「はやぶさチーム」のメンバー同然だろうからインタビュー相手もリラックスして話している。
それは親密でぶっちゃけていて、なんというか、仕事が終わったあとの打ち上げの席でビールでも飲みながら「あの時はこうだったよね」と話している感じなのだ。
こういうのって、いちジャーナリストしては公正を欠く姿勢なのかもしれないのだけれど、でも僕は好きだな。だってさ、世界でトップクラスの頭脳と技術を持ったオヤジたちがみんなで「うちの子」の話をしているのだから。
こんなインタビュー、他では聞けない。
「はやぶさ」が宇宙で迷子になったときは数ヵ月ものあいだ毎日ずっと呼び続けて返事をまっていたし(本書第八章「行方不明の冬」)、旅の無事を祈って神社へ行ってお札をもらってきたりした(九章「そうまでして君は」)のだけれど、……これってカンペキに我が子への態度じゃないか?
デパートで子供が迷子になったら親は大声で名前を呼んで捜し回る。見つからないからといってあきらめる親はいない。
子供が夏休みに初めてひとりで遠い親戚のおばさんの家に行くとなったら、見送った親はもう神様に祈るくらいしかできないだろう。
ほら。いっしょじゃないか。
一部では、「探査機を擬人化して『はやぶさチーム』の功績を無視するのは良くない」という意見も聞かれるのだけれど、本書を読んで僕は「べつに擬人化してもいいんじゃない?」と思えてきた。だって「はやぶさチーム」の方々自身がすでに擬人化して話していらっしゃるんだから。
親だったら「お宅のお子さん、すごいですね」と言われたら素直に嬉しいんじゃないかな?
僕はそう思う。
http://loplos.mo-blog.jp/kaburaki/2010/08/newton_1f16.html
- 感想投稿日 : 2010年9月1日
- 読了日 : 2010年9月8日
- 本棚登録日 : 2010年9月1日
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