おいしいものと恋のはなし (文春文庫 た 3-56)

著者 :
  • 文藝春秋 (2018年6月8日発売)
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本棚登録 : 657
感想 : 28
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田辺聖子さんと言えば、登場人物が大阪弁で、リアルにその辺りにいるような男女のこれまたリアルな恋愛模様の名手、というイメージ。
描かれているのもものすごく日常的なのに、どうしてこんなにキュンとしたり胸がちくっとしたりするのだろう、といつも思う。それは自分もありふれたリアルを生きる者の1人で、自分も過ごしたり感じたりしたことのある風景だからなのかも知らない。

恋愛小説の小品集。タイトル通り全編通して「おいしいもの」が絡んだ「恋」が描かれている。
恋愛ものの作品に食べるシーンが出てくると、どことなく艶っぽさを感じるのは私だけではないと思う。知識として、食欲と性欲は繋がるものがある、ということを知ってはいるけれど、知らなくてもそう感じていたような気がする。
男女が仲睦まじく食事をともにするばかりでなく、会社におけるバレンタインチョコレートの悲喜こもごもだとか、パートナー不在の中で淋しく食べるごはんについても描かれていて、おいしいもの、と一口に言ってもそれぞれで、だからこそリアリティを感じる。

恋の始まり、ままならない恋、恋の終わり。腐れ縁のようになって他に目を向けてしまったり、だけどまたよりを戻したり。そんなどこにでもいそうな男女の物語が、大阪弁の効果なのかより可愛らしく感じる。
「夢とぼとぼ」と「百合と腹巻」がとくに好きだった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2022年5月22日
読了日 : 2022年5月22日
本棚登録日 : 2022年5月22日

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