保育園義務教育化

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  • 小学館 (2015年7月1日発売)
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『保育園義務教育化』
著者 古市憲寿
小学館 2015年

義務という言葉にはどうしても負のイメージがつく。義務でやらされているとなれば尚更だ。しかし、義務という言葉が人を救うこともあるかもしれない。そう言ったら、驚くだろうか。このほんの著者は大胆にも、保育園(この本では乳幼児を預かる機関を代表して保育園と言っているので、実質幼稚園などもここに含まれる)を義務教育化したらどうだろうと提言している。そのほうが、日本の未来は明るくなりますよと。はて?どういうことだろうか?これには著者自身の大きな3つの狙いが隠されている
1つ目は母親の負担を減らすことができる点
著者は主に「保育園義務教育化」という名において0歳から小学校に入るまでの保育園・幼稚園を無償化しようと提案している。ここで、誰にも明らかなのは、母親の負担が大幅に軽減されることだろう。もちろん、預ける期間はその人の任意で決めてもいいとしている。そうすることで、お母さん方も自分の時間を持つことができるし、困った時に頼るべき母親のコミュニティに属することができる。
2つ目は小さい頃からも教育により、将来的に大きな価値を創出できるという点。
これは、いわゆる最近話題の非認知能力を高める上で、小さい頃からの教育が望ましいと言われていることがアメリカで1960年代に行われた「ペリー幼稚園プログラム」と言われるもので明らかになっている。これは簡単にいうと、貧しい地区に生まれた子をランダムに選び、質の高い就学前教育を施し、比較対象としてそれをしなかったこどもとを約40年にわたって追跡調査したという実験だ。ここで明らかになったのは、ペリー幼稚園に入った子供は通わなかった子どもに比べて、高校卒業率も高く、持ち家率も高く、所得も高く、逮捕率も低かったそうだ。
このような実験により、就学前教育が重要であるという定説ができていったとされている。
3つ目は新たな雇用が生まれるという点である。これは、母親の負担が減ると少し関連があるが、子供を預けることにより、余裕ができた母親が働き先を見つけて、働くことにより、日本の労働人口が増えることにより経済成長が促される。これに関しては、該当箇所を引用しよう。

柴田さんは日本を含む先進18カ国を対象に、「何をした国が経済成長をしていたのか」を分析した。
その結果わかったのが、保育サービスなどの拡充によって、働く女性が増えた時に、その国は経済成長率が上がるということだ。
(中略)
なんで子育て支援をすることが経済成長につながるのだろうか
理屈はこうだ。きちんとした保育サービスを整備すれば、女性が働いてくれ、労働力人口が増える。さらに忙しく働く女性はルンバや食洗機を買ったり、火事関連産業の拡大にも貢献する。また現代には女性向けの仕事が増えているため、女性が働くと企業の生産性も上がる。要は、女の人に働いてもらうと、いいことずくめなのだ。
ちなみに、女性の労働率を上げるには、子供手当を支給するのではなく、保育園を整備した方が効果的なこともわかっている。

昨今は格差が広がっていっている社会だと言われている。資本主義社会であるならば、しょうがないといわれるかもしれないが、一つのアイデアで改善することができるとこの本は教えてくれる。最後に印象に残った箇所を引用したい。

今の日本で親になるには、ある程度のお金があり、教養があることが前提とされている。それを象徴するのが、養子縁組をするときの養親に求められる基準だ。斡旋する団体によって条件は違うのだが、だいたい次のような要件を満たすことが求められている。
・25歳から45歳までの婚姻届を出している夫婦
・離婚の可能性がなさそうなこと
・健康で安定した収入があること
・育児をするのに十分な広さの家であること
・共働きの場合、一定期間は夫妻のどちらかが家で育児に専念できること
養子縁組には統一基準があるわけではないが、おおむね絵に描いたような「幸せ家族」であることが要求されているようだ

この基準を満たせる夫婦は一体どのくらいいるのだろう?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月12日
読了日 : 2024年1月20日
本棚登録日 : 2024年1月20日

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