空の境界 上 (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社 (2004年6月8日発売)
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本棚登録 : 3219
感想 : 332
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たまたま、図書館で見付けた本。
題名と表紙の絵、そして裏表紙の「あらすじ」にあった「伝説の同人小説」という文言から、興味が湧いて読んでみようかと思い借りた。表紙の絵から当然、ライトノベルだと思っていた。が、途中で普通のライトノベルではないなと感じ、読み終わって最後の笠井潔の「解説」を読んで、この小説は「伝奇小説」と知った。でも、「伝奇小説」ともちょっと違うような気がする。イメージ的に。
この小説は、説明が多く長い。例えば、自殺の際の「遺書」に関しても、また「無痛症」患者の「生きている実感」についても、主人公の二重人格と殺人衝動やその他の事に関しても。この「説明」の内容は、「普通の小説」ではちょっと無理すじだが、「伝奇小説」では無理の無い理屈。ただ、場合によっては屁理屈になっている。
とは言え、この「説明」「理屈」が、この小説の基になっている。つまり、登場人物の存在理由から登場人物の能力、その能力による怪奇現象、事件、出来事(殺人、暴力、自殺その他諸々)がこの「説明」「理屈」で理由付けられている。そして、この「説明」「理屈」が、結構面白い。
また、「ライトノベル」的な要素もある「伝奇小説」だから奇怪的、ホラー的、猟奇的な描写も当然あるが、アクションシーンもあり、圧倒的に強い主人公と、もしかしたら主人公より強いかもしれない敵。主人公に徹底的に惚れ込んでいる人のいい相棒。「説明」「理屈」で、出来事を解説してくれる魅惑的な女性所長。などなど数は少ないが魅力的な登場人物も良い。
ただ、「伝奇小説」と唱うのであれば、幻想的、耽美的な描写がもう少しあっても良かったかなと思う。勿論、谷崎潤一郎の背筋が凍るような美しさ、江戸川乱歩のような毒々しい美までは要らなくても、半村良の「伝承に基づいエロチズム」くらいは。
まぁ、いろいろ突っ込み処はあるが、結構面白い小説だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年6月22日
読了日 : 2023年6月25日
本棚登録日 : 2023年6月17日

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