アドルフ (岩波文庫 赤 525-1)

  • 岩波書店 (1965年8月16日発売)
3.85
  • (20)
  • (18)
  • (18)
  • (1)
  • (3)
本棚登録 : 242
感想 : 29
4

巷に溢れる恋愛物語は、恋愛の最も美味しい部分だけを、さらに美化した形で描いていて、それによって読者は決して現実のものとして現れない恋そのものに恋するようになりがちである。一方この本はそれらとは真逆で、そういった人間が実際に経験する現実の恋愛について描かれている。すなわち、恋愛の最初の局面におけるあの他では得難い幸福とそれを得るためにその瞬間では安いものと信じさえする犠牲、そしてそれが薄れたときに彼らが直面する恋愛の苦悩の面そのものである。前述した数々の恋愛物語がこの幸福の部分のみを描き、読者はそれらを読んで自ら現実世界でその続きを演じようとする一方、この本の読者は読んでいる瞬間に恋愛の一通りを体験し、ついには当分恋愛に対する意欲を欠いてしまうだろう。

読書状況:積読 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年12月21日
本棚登録日 : 2021年12月9日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする