百頭女 (河出文庫 エ 1-1)

  • 河出書房新社 (1996年3月4日発売)
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シュルレアリスムの代表的な人物であるマックス・エルンストのコラージュ・ロマン。エルンストは、シュルレアリストのなかで、手法的に一番意欲的だったとされていて、油彩をはじめ、印刷物のコラージュ、本書のような小説と合体させたコラージュ・ロマン、フロッタージュ、油彩に応用したグラッターシュなど斬新的手法を試みたアーティストでもあった。

20世紀最大の奇書とされる本書は1974年に河出書房新社から出版されたが、96年に『慈善週間または七大元素』らと共に文庫化されている。
表紙を開いて3頁目からはじまるブルトンの前口上も読み応えがある。

9章からなるこの書物は、コラージュとそれに添えられるように下に書かれている短い文章から成る。
一番最初のページに出てくる挿画と最後の挿画は同じもので、「おわり そしてつづき」という文章で終る。

百頭女が登場するのは、2章で、百の頭を持つ女ではなく、黒髪の美少女である。
襟にレースのついたぴったりとした服を着て、その服の左側の胸の部分は刳り貫かれて丸い乳房が覗く。
坐っている膝の上には、髪に薔薇の花をつけた頭だけの人形か仮面をのせ、左手の指を見開かれた瞳の上に置いている。
凭れているような大きな木箱は開かれて、無造作に放りこまれたような書物がたくさん見え、彼女の足元や膝元にも本が散乱している。
右奧には檻に閉じ込められた男が格子の隙間から手を差し出して何か叫んでいる。

エルンストの文章はこうである。

「ジェルミナル、私の妹、百頭女 (場面の奧、檻の中には永遠の父」

百頭女と怪鳥ロプロプの不思議な物語。

絵で読ませ、短い文章で読ませるこの本は超現実主義の芸術活動の一作品としてコラージュ文学の金字塔となっている。
エルンストにケルンからパリに出てくるように勧めたのは、詩人のポール・エリュアールの夫人だったガラであった。
パリ入りしたエルンストはエリュアール夫妻と同居し、奇妙な三角関係を享受した。ガラはその後、エルンストと同じく奇妙さでは群を抜くサルバドール・ダリの愛妻におさまり、エルンストもマリー=ベルト・オーランシュやレオノーラ・キャリントンなど華麗なる女性遍歴を重ねていった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2005年6月2日
読了日 : -
本棚登録日 : 2005年6月2日

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