小野寺姉弟にズッキュゥゥゥゥウン!
これまたブクログからのおすすめに挙がってきた作品。書店で取り寄せ注文したら実写映画告知の二重カバーが巻かれたものが到着。普段、こういったメディア化に合わせた広告オビとか嫌いであえて避けてきたクチなのですが、本作の場合はなんか許せてしまった。というか、向井理さんと片桐はいりさんピッタリじゃないですか!いや、むしろ片桐はいりさんの印象が強烈過ぎて〈小野寺より子〉はこのビジュアルを思い浮かべずには読めない感じになってしまった。
交互に姉と弟の視点が切り替わる連作小説。読み進むにつれて互いの本心やエピソードの真相が読者には明らかになっていく構成。
小野寺姉弟はおそらくは’世間一般のイメージ’からすればちょっと変わった人サイドの方に見られがちなタイプの人たち。いや、何も自分を棚に上げているつもりも主流化するつもりも毛頭無いのだが、こういう’自分達の暮らし’をきちんと大切にしている人って、えてして変わり者扱いというか要領悪いというか、部外者からはなんか違うと判定されがちな人たちであると思うのであります。
例えば姉・より子は「自分のものに名前を縫い込むという癖があるのだ。」(p11)とあるように自分のエプロンや持ち物やらに名前を縫い付けるのも、風水を熱心に実践しているのも、全ては’よい暮らし’に重きを置いているからだと思う(金銭的な意味でなく)。彼女が大切に育てている「ワイルドストロベリー」の花言葉は’尊重と愛情’’幸福な家庭’’無邪気’と彼女の人となりそのもの。「花が咲くその日を期待し、」(p36)「痛みを隠して生きるのが上手」(p209)で「前を向いては行く手に何かあるたびに回れ右をして同じ場所をくるくる回ってばかりいる」(p235)彼女はそれでも「小野寺の姉ちゃん」(p236)であり、そうあり続けるのだと思う。
「出来の悪い弟」(p236)である〈小野寺進〉もただの愚鈍ではない。姉も含めた「人に話しかけるのが下手」(p39)で「内弁慶」(p42)の気がある彼だが、より子以上に繊細で他人に対する観察眼に優れている。一方で「姉ちゃんが幸せになる前に自分が幸せになろうなんて思わない。そんなものは、俺にとって幸せでも何でもない。」(p199)と断じる事が出来るくらいの確かな愛をより子に抱いており、やっぱり不器用なのである。
そんな姉弟が織りなす、ささやかな日々に思わずクスリと笑いがこぼれてしまう本作。私自身は一人っ子なので一層羨ましく眩しく映ったのかもしれません。
ギスギスしがちな現代社会、家族同士だけでもお節介を許せるようにありたいものだと思いました。
5刷
2023.8.23
- 感想投稿日 : 2023年8月23日
- 読了日 : 2023年8月21日
- 本棚登録日 : 2023年8月21日
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