ペンギンのバタフライ (PHP文芸文庫)

著者 :
  • PHP研究所 (2021年11月5日発売)
3.73
  • (5)
  • (7)
  • (9)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 120
感想 : 7

初読み作家先生。

連作形式の短編5話+エピローグを収録。



〈さかさまさか〉 交通事故により商業デザイナーである妻・藍子を失った中野佳祐の視点。妻の命を奪った直截の相手は往年のヒット歌手で佳祐もファンだった菅野ヒカリ。この事故でヒカリも死亡する。
が、佳祐が不思議な坂道の噂「自転車でうしろむきに走ったら、時間を遡れる」(p11)というおまじないを実行する事で、物語は始動する。

気になる点は沢山。
最初のタイムスリップ直後、いくら妻を救う事で頭が一杯とはいえ、目の前で事故ったヒカリを見て「顔をほころばせた」(p22)はダメだろう。居合わせた人が誰一人通報せずスマホでの撮影に夢中という描写も嫌。
ヒカリに関しても精神的・体力的に消耗していたとはいえ、元はと言えば彼女が飲酒運転したのが始まりな訳で佳祐の怒りはごく自然。だがその憤りは割とあっさり解け、成り行きでタイムスリップも成功し、佳祐は作家として上手く行って藍子も生存しヒカリは人気者のまま生を終える。
ハッピーエンドが悪い訳ではないが、もうちょっと佳祐の心境の変化に焦点を当てて欲しかった。

「ペンギン」の考案者は藍子だったはずだが「ペンギン氏」はヒカリ考案のモチーフとなり後の話にもたびたび登場する。


〈バオバブの夜〉 本作でペンギン氏と並ぶキーワード「チェーンメール」が登場する話。揃って自衛官である父親と兄達に引け目を持つフリー編集者・丸山拓海の視点。
初子の出産直前、時空がもつれて’拓海の誕生を迎えた日の父親’と会話を交わす事になる不思議な話。
面白い設定の話なんだが拓海が煮え切らなさ過ぎる男で歯痒い。


〈ふりだしにすすむ〉 生まれ変わりがテーマの、ある老人とある女性の数奇な話。すごくモヤモヤとした進行、ネタバラシされてもあまりスッキリしなかった。個人的には本話の登場人物らが全員苦手。
バーでは静かにしましょう。


〈ゲイルズバーグ、春〉 高校時代の「ぼく」のもとに届いた、未来の日付からのメール。ミステリー要素ありの話。ここで「チェーンメール」の伏線が効いてくる。ただフィニイに関してはあんまりだと思ったのと、「アメリカまでナナに会いに行き」(p203)ってその辺りの顛末にドラマはなかったのだろうか?


〈神様の誤送信〉 〈ゲイルズバーグ〉の補完編みたいな話。更に〈バオバブ〉の7年後という時系列。椎名がチャラ男に。「バンダナ女子」(p211)ってひょっとしてりり子??バンダナをどう身に着けているのか気になる。てっきり松野さんが藍子かと思ってたけどよく読んだら名前が違った。松野さんは何であんなに怒ったの?


〈エピローグ〉 ’中山佳祐の文庫あとがき’という体で綴られ、これまでの物語がパラレルでなく同じ次元での話だと明らかになる。


率直な感想としては、女性キャラの誰ひとりとして好感を抱けなかった珍しい作品。
では男性キャラが面白い人達かというとそうでもなく、何かみんな遠慮がちな割に図々しいような、これまた癖のある人たち。

物語の仕掛けがふんだんに盛り込まれている一方、人物描写が物足りなく感じられてしまった。


1刷
2021.12.11

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年12月11日
読了日 : 2021年12月10日
本棚登録日 : 2021年12月10日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする