タカラモノ (双葉文庫)

著者 :
  • 双葉社 (2019年6月12日発売)
4.08
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本棚登録 : 1575
感想 : 132

普段、自分からはあまり手に取らないであろう雰囲気の本だったが、立ち寄った書店で大変目立つ積まれ方をしていたので物は試しに購入。

なるほど、主人公・ほのみの人生を、小学生時代からすっかり大人になるまで我々が伴走する感じの作品か…どれ…お母さんのキャラがキレッキレだな…お父さんはわかりやすい嫌われ者だな…お姉ちゃんともほのみは上手くやれるのかね…しかしお母さん凄いな…

お母さん凄いな!

飄々としたお母さんの口から数多放たれる、含蓄に富むお言葉の数々がとにかくいちいち胸を打つ。
大袈裟でなくお母さんの発言の5割くらいがお洒落な言い回しや格言のようなもの。
これだけキラキラした存在感を放ち物語を動かしてきた、’読者にとってさえ’お母さんのようなキャラが退場するとなったら、そりゃ読者としても喪失が大きいし情も移っているしシンプルに悲しい。

それはその通りなのだが、どうにも作品全体のバランスとして、なんだか歪さも感じてしまったのは否めない。

厳密には母子家庭ではないにしろ父親との関係はほぼ決裂しており、自然と母娘の距離が縮まるのはわかる。わかるのだけど、これだけ奔放な母に対してのほのみの感情が単純化されすぎてやいないだろうか。
2章最終盤・大学受験を間近に控えたタイミングに母が出奔した時点でほのみは強い怒りや失望を抱えた筈だし、事実私も身構えたのだが、なんと3章が始まって2ページ目で母は帰って来た。しかもその時に母が焼いたエクレアを食べ終える頃には「涙がまたエクレアにぽとっと落ちて、じんわりとしみ込んでいった。」(p109)と、和解してしまっている。あっけない。


母から授かった金言・一緒に過ごした時間が『タカラモノ』であり、それらはしっかりと娘に受け継がれ、また他人にも伝播し…というストーリー自体を否定はしないが、じっさい母と姉の関係はどうだったんだろう、とか、これ程の見識を持った母を惹きつけたミヤタの真の魅力は何だったのかとか、もっと描いてほしかった部分もあります。


「『わたしはすばらしい』って」(p151)相手に思わせられるような夫でありたいし父でありたいし自分でありたい。


1刷
2022.7.10

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年7月10日
読了日 : 2022年7月5日
本棚登録日 : 2022年7月5日

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