決定版 日中戦争 (新潮新書)

  • 新潮社 (2018年11月15日発売)
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・南京事件
南京陥落前後に生起した日本軍による南京事件は、現在でも活発な議論がなされているが、外務省のウェブサイトの「歴史問題Q&A」では、「非戦闘員の殺害や略奪行為等があった事は否定できないと考えています。しかしながら、被害者の具体的な人数については諸説あり、政府としてどれが正しい数かを認定する事は困難であると考えています」と記されている。以下、事件の概要を示す。
①性格
中国では、その組織性や計画性が強調され、さらに、Iris Changの著書The Rape of Nanking:The Forgotten Holocaust of World War Ⅱ(1997)のタイトルが象徴するように、ホロコーストと並べて論じられることもある。
一方、「日中歴史共同研究報告書」は、「日本軍による捕虜、敗残兵、便衣兵、および一部の市民に対して集団的、個別的な虐殺事件が発生し、強姦、略奪や放火も頻発した」と記述されており、計画性や大規模な組織性は否定されている。
②犠牲者数
日本軍による虐殺行為の犠牲者数は、極東国際軍事裁判における判決では20万人以上(松井司令官に対する判決文では10万人以上)、1947年の南京戦犯裁判軍事法廷では30万人以上とされ、中国の見解は後者の判決に依拠している。一方、「日本報告書」では、「日本側の研究では20万人を上限として、4万人、2万人など様々な推計がなされている」と記述されている。このように犠牲者数に諸説がある背景には、「虐殺」(不法殺害)の定義、対象とする期間、地域(例えば東京裁判では、期間は12月13日の南京陥落から6週間、地域は南京市とその周辺とされている)、埋葬記録や人口統計などの資料に対する検証の相違が存在している。


目下、中国は、日中関係の基礎としての第二次世界大戦での中国の勝利と日本の敗戦との関係性をカイロ宣言に基づいて理解している。中国は戦勝をカイロ宣言とポツダム宣言で理解している、といっていい。それに対して、日本はポツダム宣言とサンフランシスコ講和条約に依拠して敗戦を理解している。これこそが尖閣諸島などの領土問題や歴史認識問題をめぐる日中間の論理立ての根源的矛盾のひとつである。尖閣諸島について、日本がサンフランシスコ講和条約交渉過程でアメリカにより日本領だと認定されたと主張し、中国がカイロ宣言で中華民国に返還されるとされた台湾に尖閣諸島が含まれるとしているのは、その代表的な論点であろう。

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感想投稿日 : 2019年8月4日
読了日 : 2019年8月10日
本棚登録日 : 2019年8月4日

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