真昼のプリニウス (中公文庫 い 3-4)

著者 :
  • 中央公論新社 (1993年10月1日発売)
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本棚登録 : 534
感想 : 55

 著者の作品をこれまでに数冊読んだ中で、最も心に残っている。昨今、人類にとっての神話、物語、ナラティブの重要性があちこちで聞かれる気がする。けれども本作は、神話に眼を曇らされて世界をじかに見ようとしない態度は、偽りの生き方にもなりかねないと伝えてくる。しかも途中で登場する易者の言葉は、科学的なアプローチさえ、真に世界を受け止めようとすることをスルーしかねないものがあることを仄めかす。

 物語でも科学でも同じことで、私たちは何かと、説明ばかりつけようとしていないだろうか。ほんとうに世界を知るとはどういうことなのか。目に見えない問いがすごく心に刺さる。

 そのうえで改めて、主人公がバイオリズムに委ねて手紙を書くくだりを思い返すと、ふつうはこういう手紙の送り方はあまりしないわけだから、もしかしたら人間は生き物の感覚を忘れすぎているのかもしれなくて、なんてものごとを複雑にしないと生きられないんだろうと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年11月19日
読了日 : 2021年10月27日
本棚登録日 : 2021年10月25日

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