一ドル銀貨の遺言 (二見文庫 ブ 1-5 ザ・ミステリ・コレクション)

  • 二見書房 (1988年12月1日発売)
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感想 : 10

 マット・スカダー・シリーズも第三作目。おなじみマット・スカダー(酒飲みの元警官)を中心に、トリナ(スカダー行きつけのアームストロングの店のウェイトレス)やエディ・コーラー(スカダーの知り合いで六分署の警部補)が脇を固めている。安定した作風。

あらすじ
 タレ込み屋が殺された! 遺された手紙には、彼が強請った3人のうち誰かに命を狙われていると書かれていた。スカダーは自らも恐喝者を装い犯人に近づくが……。

 最初このあらすじを読んだとき、「いやいや、どうしてスカダーが恐喝者の真似事をしなくちゃならんわけ……」と不思議に思ったが、その違和感が後々の話に登場しているのを見つけ一応は納得した。でも煮えきれない。それは、もしかしたらスカダー自身もそう思っているのかもしれないが。というか、本名を名乗ったまま恐喝するんだ……。そうか、そんなものなのか。
 恐喝者を装うってスカダー大丈夫なのかと心配してしまうが、「私が演じている役まわりにだんだん嫌気がさしてきた」という心情が入ってくると少し安心してくる。心の揺さぶりが大なり小なり私まで伝わってくるのだ。
 また(ひとまず単純に考えて)ミステリ的に読むとするならば、恐喝されていた三人のうちの誰かがタレ込み屋のスピナーを殺したことになる。スカダーに目を通して、三人の様子を淡々と窺ってみるが、どれも犯人に見えてしまうが、その逆もまた然りな状況で埒が明かない。そもそもスピナーを殺した犯人が、続けてスカダーまでも殺すものなのか、という微かな疑問を持ちながら悶々と読み進めていた。――これは別に考えすぎではないだろうと思う。たぶん。

 本書は、強請った側と強請られた側の思惑が主軸となっている。強請られた側は三者三様の事情があった。もちろん恐喝をしたスピナーは間違いなく犯罪者だ。それは許されざるものである。しかし強請られた側にも問題が少しはあるに違いない。……というと、「いじめられた方にも責任がある」論法と似通ってしまうので自省するが、ただ強請られた側にもそれなりの負い目があったのは確かだ。……ただ、ある程度の事情があったのは否めないので一概に悪いとは言い切れない。なんだか混乱してきたのでここ辺りで打ち切るが、なかでも、ヘンリー・プレイジャーの事情は何とも言えない気持ちになってくる。

 巻末の「マット・スカダーに関する身上調書」が載っている。スカダーのプロフィールが大雑把に分かって面白い。やはりローレンス・ブロック、あるところで結構いい加減に話を書く作家だと思った。どうやら『八百万の死にざま』に、スカダー論が所載されているらしいので、なるべく早く買って読んでみよう。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 百石
感想投稿日 : 2011年6月1日
本棚登録日 : 2011年6月1日

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