どこから行っても遠い町 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2011年8月28日発売)
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本棚登録 : 2567
感想 : 247
5

川上弘美って、
どうしてこうも怖いのだろう。

以前からそうなのだが、
年々その怖さが増していき、
先に読んでいた『森へ行きましょう』に真骨頂を見ていたが、
この作品で既にその片鱗が明確に現れていたか。

ふわっと夢のようでありながら、
生々しさと毒があって、
そのくせ冷たいくらいに俯瞰している視線がある。
それはグロテスクではない静かなものだからこそ、
とても怖く感じる。

確かにどこにでもありそうな町の人間模様に、
少しでも足を踏み入れれば、
そこにはひとりひとりの人生があり、
それは何にも変えられない超個人的なものだ。
その人生達が触れ合って、絡み合い、
通り過ぎて、離れていって、
そうしてまたひとつずつの物語が広がっていく。

始まりからゆっくりと積み重ねられた終わりの展開に、
背筋が凍る。

どうしてこんなに怖いのかと考えてみると、
きっとすべてが平等だからだ。
生きとし生けるものも、
意識も無意識も、
生と死も、
ひとつづきであるという真実を、
川上弘美は言葉にして、物語にしてしまえるから、
とても怖いのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 川上弘美
感想投稿日 : 2021年8月27日
読了日 : 2021年8月27日
本棚登録日 : 2021年8月27日

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