ちぎれた鎖と光の切れ端

著者 :
  • 講談社 (2023年8月30日発売)
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感想 : 11

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ちぎれた鎖と光の切れ端 荒木あかね氏
復讐の負の側面を描く
2023/10/14付日本経済新聞 朝刊
2022年に江戸川乱歩賞を最年少受賞し、本書は受賞後の第一作となる。熊本の無人島で旅行者が次々と殺された事件から3年後、今度は大阪で連続殺人が発生する。遺体の第一発見者になった女性は警察から犯人に狙われていると告げられる。真相を解く鍵は2つの連続殺人を貫く復讐(ふくしゅう)の連鎖にあった。

 あらき・あかね 98年福岡県生まれ。九州大学文学部卒。2022年『此の世の果ての殺人』で第68回江戸川乱歩賞を最年少で受賞しデビュー。
あらき・あかね 98年福岡県生まれ。九州大学文学部卒。2022年『此の世の果ての殺人』で第68回江戸川乱歩賞を最年少で受賞しデビュー。

「2つ目の事件のアイデアを最初に思いついた」と話す。犯人が何らかの法則に従って連続殺人におよぶ筋書きはアガサ・クリスティーの『ABC殺人事件』をほうふつとさせる。「殺人の法則に隠された犯人の目的をどう味付けするかが、ABCパターンのおもしろさ。いつか自分も書きたいと思っていた」

連続殺人犯の目的は報復。「『復讐を遂げてすっきり終わる作品』ではなく、復讐の負の側面に光を当てる作品にしたかった」。友を殺された恨みを抱える人物が犯人への報復の機会を前にして葛藤する姿に「人を傷つけてはいけない」というメッセージを込めた。

復讐の動機は愛だ。きょうだいや先輩・後輩などの関係に生まれる絆を描いたが「愛を疑うことを意識して書いた」。妹への思いを言葉で本人に伝えられなかった兄。そのゆがんだ気持ちが殺人の端緒になった。「方向性を間違った愛は加害性を含むことがある」と美しさだけでない愛の多面性を見つめた。

デビュー作『此(こ)の世の果ての殺人』では自動車教習生と元刑事の女性バディが事件の謎を解いた。今作でもシスターフッド(女性同士の連帯)が鍵になる。事件の真相に迫るのは遺体を発見したゴミ収集員と彼女の護衛係になった刑事。2人とも「男性の多い職場で仕事に誇りをもって働く女性」であり、女性蔑視が残る「前時代的な価値観の家庭で育った」という設定だ。

「2人が連帯し、事件だけでなく彼女たち自身の問題も乗り越えていく様子を描きたかった」。今後も取り組みたいテーマだという。(講談社・2090円)


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読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: Entertainment
感想投稿日 : 2023年10月21日
本棚登録日 : 2023年10月21日

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