時代は幕末、江戸が終わり、明治がはじまる、江戸東京。
浮世絵界の巨星、歌川国芳が没するところから物語ははじまる。
遺された弟子の歌川芳藤は、自身の絵に華や才能がないことを感じながらも、師匠の遺した画塾を継ぎ、絵師としての仕事を続ける。
自分よりも才能に恵まれ時代の寵児ともてはやされるおとうと弟子への忸怩たる思い。本来なら新人がやるような子供向け玩具の絵ばかりを依頼され、それでも手を抜くことなく丁寧な仕事を心がける真面目さ。文明開化が進み浮世絵が滅ぶのではないかという恐れ。死ぬまで絵師でありたいと思う矜持。
変わりゆく時代の中で葛藤する男の姿が丁寧に描かれている。
迷い、惑いながらも頑なに自分が良しとするものを目指す姿は、派手さはないけれど、ひとりの不器用な男の生き様として胸にしみる。
たまたまこの本を読み終えてすぐに美術館で浮世絵を見る機会があり、芳藤が嫌った、新しい顔料の派手な赤がどういうものなのかを目で見ることができた。ああ、なるほど、と思う。
物語を通して得た知識が自分のものの見方をほんの少し豊かにしてくれたように思い嬉しい。
子どもが遊んだらすぐ捨てられてしまうおもちゃ絵ばかりを手掛けたために芳藤の作品は現存しているものが少ないらしいが、いつか実物を見てみたいと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
なにか考えたくなる
- 感想投稿日 : 2019年3月10日
- 読了日 : 2019年3月10日
- 本棚登録日 : 2019年3月10日
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