この作品はアメリカの作家ラーラ・プレスコットのデビュー作にして映像化が決まっている作品で、老舗のクノップ社が二百万ドル、日本円にして約二億円で出版権を獲得し、世界各国、三十カ国以上に翻訳出版されているそうです。
作品中の『ドクトル・ジバゴ』は有名な文学作品であり1065年に映画化されていますが、全く知らなかったのでYou Tubeで調べてハイライトシーンと、有名だという『ラーラのテーマ』を聴いてみました。
作者の名前、ラーラ・プレスコットは本名で母親が映画『ドクトル・ジバゴ』のファンだったのでヒロインの名にちなんで「ラーラ」とつけられたそうです。
また、作品のストーリーではパステルナークの愛人だった女性のオリガとCIAのタイピストになったイリーナが東西の各主人公として描かれていますが、オリガがパステルナークのために強制収容所に送られ大変な苦難を強いられる場面、イリーナが性的マイノリティに悩み善良な男性テディからの求婚を拒み、サリーとも別れるところは胸を打たれました。
ラストシーンはパステルナークの最期と、現在のタイピストの女性たちのその後のシーンですが、非常にカタルシスがありました。
訳者あとがきより以下、抜粋。
この作品の舞台は、1950年代後半の冷戦時代アメリカのCIA(中央情報局)にタイピストの職を求めてやってきた女性が思いがけず、スパイの才能を見こまれて、タイピストとして働きながら、秘かに訓練を受け、ある特殊作戦の一員に抜擢されました。その作戦とは、共産国であるソ連で出版禁止となっている小説をソ連国民の手に渡し、ソ連政府がどれほど非道な言論統制や検閲を行っているかを知らせ、政治体制への批判の芽を植えつけようというものです。
特殊作戦の武器となったのは、ソ連の有名な詩人であり、小説家のボリス・パステルナークの渾身作『ドクトル・ジバゴ』でした。
のちにノーベル文学賞を彼にもたらすこの作品は、ロシア革命の混乱に翻弄されつつ生きる主人公ジバゴと、恋人のラーラの愛を描いています。
ドクトル・ジバゴ作戦はCIAが実際に行った戦略のひとつで、ペンの力、文学の力を信じた人たちの物語であることが本書の大きな魅力となっています
こうした歴史的事実を踏まえつつ、歴史の陰に埋もれていた人々やオリジナルの登場人物が生き生きと臨場感たっぷりに描写され見事なフィクションに仕上っている点も本書の魅力です。
西側と東側の物語が交互に語られるのですが、西側ではCIAで働くタイピストたちの日常を追いながら、豊かな自由社会にも存在する女性差別やハラスメントが浮き彫りにされます。東側では『ドクトル・ジバゴ』の著者パステルナークと、愛人オリガの関係を通じて、愛のせつなさばかりか、悲惨さが描かれます。歴史の陰のそのまた陰に生きた、本書では名前もない人たちの生き方にも、胸を打たれることと思います。
- 感想投稿日 : 2020年7月29日
- 読了日 : 2020年7月29日
- 本棚登録日 : 2020年7月29日
みんなの感想をみる