サラの鍵 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2010年5月30日発売)
4.28
  • (124)
  • (107)
  • (32)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 822
感想 : 159
4

映画がよかったので、原作にあたりたいと思い手に取った。過去の物語と現代の物語という二重構造になっていて、本筋のヴェルディヴ事件についてはもちろんだけれど、現代におけるアメリカとフランスの恋愛や結婚観の違いなどがわかったのも興味深かった。フランスでは meetoo運動が盛り上がらなかったと聞くけれど、なるほどね、という感じ。さまざまなタイミングでジュリアが大きな選択を迫られ、揺れるところがよい。夫のベルトランも、わりとダメなんだけど、ダメなりに誠実だし葛藤しているのですよね。見限らずそこを推し量るジュリアの誠実さと優しさもすごいと思った。一方で、優しくされても流されない強さもあって。こういう、ダメ男が女性に甘やかされるのもフランスっぽい気がした。
真実を知らされてからのウィリアムの心の動きは映画より繊細な描写で心動かされた。映画でも最後の場面は泣いたけど。
自国に都合の悪い真実には蓋をしてしまうというのは、どこの国でも起こりうるのね。フランスは戦勝国側だったから、検証することも裁かれることも無くてドイツだけが矢面に立たされていたのだろうけれど、1995年にシラクさんがこの事件について現役大統領として初めて言及したというのは、ほんとに英断だったと思う。
ジュリアがフランス警察や、ユダヤ人輸送に携わった運転手など、加害者側の取材をしなかったことを上司に指摘される箇所は意外に重要な気がした。物語としては流れてしまうけれど、明らかにそこでちゃんと問題提起がなされているという印象だった。今の人権意識からすると、勝った方も負けた方もどの国も相当な酷いことをしている。それが戦争。「戦争中の話だし、もう昔のこと」というセリフが何度も出てくる。けれど、その過去は現在に繋がっていて、決して無関係ではないことをおしえてくれる、良書でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月18日
読了日 : 2023年4月18日
本棚登録日 : 2023年4月2日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする