わたしがいどんだ戦い 1939年

  • 評論社 (2017年8月10日発売)
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感想 : 30
5

エイダは内反足をもって生まれた11歳(というのもあとから判明するのだけど)の女の子。足が悪いために母親にうとまれ、憎まれ、「見苦しい足の怪物め!」とひどいことばを毎日浴びせられながら、狭い自宅の一室におしこめられて暮らしてきた。外へ出してもらったことはなく、当然学校にも行っていない。

そんなひどい虐待をうけて育ったエイダだけれど、天与の強靱な心を持っていた。ちょうど、5つ下の弟ジェイミー(またいい子なんだ、この子が)が学校にあがったころ、イギリスはドイツと戦争状態になり、ロンドンの子どもたちは爆撃を避けて地方に疎開することに。エイダの母親はむすめを人目にさらす気はさらさらなく、ジェイミーだけを疎開させようとしていたが、エイダは母親が寝ている早朝に、ジェイミーに助けてもらいながら生まれてはじめてアパートを飛び出し、疎開児童の集団にまぎれこんだ……。

ふたりをひきとってくれたスーザンが、オクスフォード出のインテリ女性で、しかも最近愛する女性のパートナーを亡くしたばかりという、この時代には珍しい人物像なんだけど、子どもを引きとる気がなかったこの人がほんとうにいい人で、不器用ながらもエイダとジェイミーをけんめいに育て、愛してくれる。

でもエイダは、この暖かく満ち足りた暮らしはほんの一時のものだと思っているので、スーザンの愛情をすなおに受け止められない。やさしくされればされるほど引いて、ときにははげしいパニックを起こしてしまう。そのあたりの、虐待によるトラウマの描写がリアルでつらかった。

でも、重くて暗いだけの物語ではない。スーザンの家で、ポニーの「バター」と出会ったエイダは、たちまち馬に心をうばわれて、自己流で乗馬をまなび、やがては村のお屋敷の馬丁と仲良くなって、馬の世話のしかたをどんどん身につけていく。馬の描写、自然の描写は、きらきらしていてほっと心が安まる。

エイダとジェイミー、あるいはスーザンの会話にも、はしばしにたくまざるユーモアがひそんでいて、ときどきくすりと笑ってしまうし。

屋敷のおじょうさまマギーとの交流や、ダンケルクの負傷兵救助で出会った酒場の娘デイジーとの交流など、エイダが生来の聡明さと心の強さを発揮して、どんどん人とつながっていくのもいい。

それだけに、母親があまりにもモンスターなんだけど……。でも、こういう親ぜったいいるから。だから、こういう物語がとどくべきところにとどいてほしいと願うのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: YA
感想投稿日 : 2017年10月19日
読了日 : 2017年10月19日
本棚登録日 : 2017年10月19日

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