膚(はだえ)の下

著者 :
  • 早川書房 (2004年4月23日発売)
4.14
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本棚登録 : 201
感想 : 27
5

神林作品はそれなりに読んできたが、その中で最も気に入っている一冊。ただ、読んでから日が経ってしまったので少々うろ覚えなレビューですが。。。

 戦争によって汚染された地球を浄化するため人間が一時的に火星へ離脱し、その間に生涯を浄化作戦に費やす要員として創られた人間、すなわち人造人間のひとりである慧慈軍曹が主人公である。
 人造人間といっても汚染された地球で生きていく程度に遺伝子的に優れていることと、軍人として育てられたので生き残る術に長けている程度しか人間と違わない。任務で人間を殺し、人間と出会う中で、人間と非常に似通う″かたち”をしていながら人造人間は確かに人間ではないことに気づく。まさに「かたち」ではない中身、膚の下に存在する人造人間の本質を、そして対比される人間の本質をごりごりと描き出す。
 人でないものとの対比によって人間を描くというのは神林作品(というかSF作品の多く?)で行われているように思うが、この作品の魅力的な理由は、慧慈が確かに人間とは異なる存在であることを読者は理解するが、それでも彼に非常に感情移入できることではないかと思う。この理由の一つとして思うのは、人間と同じかたちをしていること(同じく火星シリーズの一作である『帝王の殻』のPABも人でない異質な存在だがPABに感情移入はし難い)。もう一つは先ほど「ごりごりと描き出す」と書いたとおり、神林長平によって力強く描かれる慧慈軍曹の思考のリアリティだろう。そして感情移入することによってますます、人間でなくアートルーパー(人造人間)としての生を獲得しようとする慧慈の生き様が鮮やかになっていく。
 そして最後に慧慈達が出す答えになにか無性に救われた気分になった。なんだかダラダラ長々とレビューを書いたが、この一瞬だけで分厚いハードカバー本を読みすすめた甲斐はあったと言えるものでしたね。
 記念すべき一冊目のレビューにしてベタ褒めすぎか、、いや、まぁ、仕方ない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2014年7月8日
読了日 : 2013年月
本棚登録日 : 2014年7月8日

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