人がどう住み、どのようなまちや地域を作り、またどのような公共政策や社会システムづくりを進めるかという、政策選択や社会構想の問題なのだ。それがまさに「人口減少社会のデザイン」というテーマである。
(引用)人口減少社会のデザイン、著者:広井良典、発行所:東洋経済新報社、2019年、31
近年、「持続可能」という言葉をよく聞く。
代表的なのは、2015年に国連で採択されたSDGsであろう。SDGsは、持続可能な開発目標の略称であり、17の目標、169のターゲット(具体目標)で構成されている。SDGsには、「貧困をなくそう」、「すべての人に健康と福祉を」、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」など、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が掲げられている。
なぜ、今、「持続可能」なのか。
世界に目を向ければ、貧困、ジェンダー不平等、地球温暖化など、人類が解決しなければならない課題が山積している。
また、我が国で「持続可能」と言われれば、「少子化」という課題が頭によぎる。
このたびの広井氏によって著された「人口減少社会のデザイン」は、我が国の人口減少に焦点を絞り、「持続可能な福祉社会」モデルを探るものである。
広井氏は、豊富なバックデータを武器に、日本の少子化の現状、そして世界における日本の立ち位置などを解説する。
そのデータの中で気になったのは、「社会的孤立」の国際比較だ。社会的孤立とは、家族などの集団を超えたつながりや交流がどのくらいあるかに関する度合いのことだ。残念ながら、日本は先進諸国の中で、社会的孤立度がもっとも高い国ないし社会になっているとのことだ。
社会的孤立度が高いということは、様々な影響を及ぼす。
少子化という観点で言えば、まず真っ先に思い浮かぶのは、婚姻であろう。若者の価値観が多様化する中で、我が国も未婚化、晩婚化が進む。
広井氏によれば、先進国において出生率が比較的高いのは、
①子育てや若者に関する公的支援
②伝統的な性別役割分担にとらわれない個人主義的志向
であると言われる。
これらの項目は、公的機関などが施策を立案する際、社会的背景としてなんとなく意識していたことではないだろうか。ただ、広井氏によるエビデンスで少子化の要因やその解消法が明らかになった以上、我が国や公的機関は、意図して施策を展開しなければならないと感じた。
また、少子化が進展する中で、よく話題にのぼるのがコンパクトシティである。
広井氏は、本書にてそこまで触れていないが、現北海道知事の鈴木直道氏は、財政破綻を経験した夕張市長時代にコンパクトシティを進めた。また、国においても立地適正化制度を導入し、「コンパクト・プラス・ネットワーク」の考えも示している。
一方で、都市集約とはかけ離れた岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)地区の取り組みが面白い。本書でも紹介されているNPO法人 地域再生機構は、石徹白地区で小水力発電を軸として地域活性化を試みている。私も石徹白地区のことをホームページなどで調べてみたが、現在の小水力発電は、集落に暮らす270人を補って余りある量があるという。そのため、移住者も増え、特産品なども誕生し、自給自足、地産地消を実践する集落だ。
地域再生機構副理事長の平野彰秀さんは、「地域で自然エネルギーに取り組むということは、地域の自治やコミュニティの力を取り戻すことであると、私どもは考えております(同書、129)」と言われる。
石徹白地区の事例は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」を取り組んだら、SDGsが掲げる「経済」「環境」「社会」という3つの側面を達成した好事例であると思った。そして、冒頭、広井氏の言葉を引用をしたが、人口減少の時代において、人がどのように住み、どのようなまちを作っていくかは、その施策が「持続可能であるか」と問うところから始めなければならないと感じた。
本書は、社会保障、医療、そして超高齢化時代の死生観に至るまで、興味深い内容が続く。また、本書の巻末には、広井氏が提起してきた主要な論点を列記している。これらの論点は、今後の自分たちの地域、そして日本を「持続可能」なものにしていくために有効であると思った。
いますぐ、誰もが「持続可能」な取り組みを求められている。そのヒントとなるのが「人口減少社会のデザイン」であろう。
これからもずっと、私たちが愛してやまない故郷や国で暮らす人々が、豊かで幸福でありつづけるために。
- 感想投稿日 : 2020年7月6日
- 読了日 : 2020年7月6日
- 本棚登録日 : 2020年7月6日
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