惜別 (新潮文庫)

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感想 : 84
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吾妻鏡における鎌倉第三代将軍実朝の生涯を太宰なりに解釈し、近習に語らせる形で詳述した『右大臣実朝』は、尊敬語、謙譲語、丁寧語の文が格調高く。
武家ながら雅な性質を帯びた実朝の行状に、やがて公暁に暗殺されるといった、危うさ、滅びを仄めかせる文章が巧み。
魯迅の仙台留学時代を、その友人であった同窓生の回想で描く『惜別』は、太宰作品で一番好きかも。
支那の革命のためには洋学が必要で、それを厳選して受け入れている日本に留学し、医学を身に付け、病気を治せるようにし、人民に希望を持たせ、その後に精神の教化を、と目論んでいた魯迅が、日露戦争で日本が勝ったことで変わっていく。
明治維新の源流が国学にあり、洋学はその路傍に咲いた珍花に過ぎず、日本には国体の実力というものがある。だから、医学という遠回りをせずに、著述で直接に人民を教化しようという風に。
かなり日本に都合よく書かれているきらいはあれど、それは内閣情報局と文学報国会から太宰が依頼を受けて書いた国策小説だからとのこと。
それを差し引いても、魯迅とその同窓生たち、そして恩師である藤野先生との交流は暖かく、青春小説としても楽しめた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2021年9月14日
読了日 : 2021年9月14日
本棚登録日 : 2021年9月14日

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