日本のいちばん長い日 [東宝DVDシネマファンクラブ]

監督 : 岡本喜八 
出演 : 三船敏郎  加山雄三  山村聡  笠智衆  黒沢年男  佐藤允  中丸忠雄  加東大介  小林桂樹  島田正吾  新珠三千代 
  • 東宝
3.86
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感想 : 7
5

いまリメイク映画が劇場公開されていて、戦後70年ということで様々な話題にも事欠かない時節がらということもあり鑑賞してみました。
タイトルに相応しく158分の大作ですが、時間の経つのが短く感じられるくらい見入ってしまいました。

1967年東宝。監督は岡本喜八。原作は大宅壮一編『日本のいちばん長い日 運命の八月十五日』で、著者は半藤一利とのことです。
どちらかというと当時の状況を描く目的の映画ですので、様々な視点が入っていて主演はなかなか特定しづらいのですが、やはり阿南陸相役の三船敏郎になるんですかね。それにクーデター側として陸軍省の中堅将校役の黒沢年男や高橋悦史も一方の主演であったかもしれません。
ほかに鈴木首相役に笠智衆、東郷外相役に宮口精二、米内海相役に山村聰、下村情報局総裁役に志村喬、迫水書記官長役に加藤武、森近衛師団長役に島田正吾、野中児玉基地司令役に伊藤雄之助、徳川侍従役に小林桂樹、昭和天皇役に八代目松本幸四郎、ナレーターに仲代達矢と豪華俳優陣が魅力的です。ちょい役として新珠三千代や加山雄三も出演しています。あと、横浜警備隊隊長役として天本英世が怪演していましたね。
加藤武はつい先ごろ訃報が流れていました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

内容は終戦の聖断と終戦の詔勅から玉音放送レコード作成にいたる過程、そして後半はそれを奪取し本土決戦に持ち込まんとする陸軍中堅将校のクーデター事件を描いています。
冒頭と最後の生々しい当時の映像が全体を引き締めています。当時を印象づける白黒映画なのも効果的で、全編を通して鋭い緊迫感と緊張感に包まれているとともに、そこかしこに見られる監督のシニカルな表現も的を得たもののように思われます。特に終戦を決定する道程の描写は、緊迫感とともに瑣末な物事に固執する人びとの皮肉が大いに込められていて、演出としてもとても興味深いものがありました。
こうした映像表現と相まって、三船敏郎の阿南陸相の大いなる苦渋と黒沢年男の畑中少佐の狂気ぶりは特に際立っており、観る者を当時の世界に引き込んでいくかのようでありました。また、軍の統制を最優先する陸軍最高首脳たちが冷静なのと、特攻を見送りに児玉基地を訪れた一般民衆の熱狂ぶりは、阿南陸相や畑中少佐ら、そして「聖断」にのぞむ昭和天皇の姿勢と対比されており、これまた映画としての面白さを引き立てていたと思います。
あと個人的には、八代目松本幸四郎の昭和天皇の苦悩と、ほのぼのとした笠智衆の鈴木首相の強い意志の描写もなかなか面白かったです。終戦の詔勅の文言を吟味する緊張感溢れる閣議の中で、阿南陸相と米内海相の意見の対立を、遠い耳をそばだてて聞く鈴木首相の仕草は何ともいえない愛嬌を感じさせました。(笑)八代目松本幸四郎がちゃんと映っていなかったのは時代を感じさせますね。
映画としてはいろいろな視点が描かれていたため、焦点がぼやけてしまうきらいはありましたが、これも当時の状況を多面的に描いたものと考えると、交わりもないストーリーにも象徴的な意味として活きていますね。

本作公開年に昭和天皇もこの映画を観賞したとのことですが、本来なら忘却してしまいたいこのような途轍もない過去を描いた映画をどのような感慨をもって観賞されたのでしょうか。
国土への空襲で都市は廃墟と化し、数百万の一般臣民も殺戮される。沖縄は占領され、原爆を落とされ、ソ連も参戦してくる。自分に対して一般の臣民は恐怖を憶えるほどに熱狂をしてみせ、軍中堅の自分の名を借りた狂信ぶりは危険に思える域に達している。
戦後、軍の暴走を止められたのはお前だけだったといわれた存在にもかかわらず、信任した重臣らのみが罪に問われ、そのまま在位することを求められ続けた存在。常に超人的な神として求められ続けてきた存在。
実際の政治へ自らの意思を反映させた数少ない事例だったといわれる「終戦の聖断」と、当時の流れをパラレルに重ねわせることができたとき、去来するものは一体何だったのでしょうね。当事者の映画の感想ということでこちらの方にもとても興味があります。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本映画
感想投稿日 : 2015年8月15日
読了日 : 2015年8月15日
本棚登録日 : 2014年9月26日

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