熱い飯を盛ったふたつの茶碗に、それぞれ塩焼きにした養殖物と天然物の桜鯛を箸でほぐして、さっとからめる。「養殖物は重たい脂が飯にまとわりついて、人工の飼料の臭いがした。だが本物はいつの間にか、香ばしい脂が茶碗の底にまで突き通っていて、飯全体が艶々としていた。鯛という魚の味よりも、新鮮な瀬戸内海の新鮮な空気をそのまま食べているようだと気づいたとき……」(「桜鯛の花見」)。
現実なのか虚構なのかといったことはさておき、とにかくこうした言い回しの妙を目で味わい堪能すべき一冊。まずい料理さえいつしか食べたくなる、怖ろしさ。
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- 感想投稿日 : 2013年11月19日
- 読了日 : 2013年11月19日
- 本棚登録日 : 2013年11月19日
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