読んでいる最中は非常に興奮して、これは凄いメタフィクション小説だ、とわくわくしていた。というのも本作はまず小節の切り替え毎に冒頭で語り手が「〇〇です」と宣言してから一人称で語り始めるのだが、ちょいちょい丁寧語の部分が出てきて読み手に語りかける。これが斬新だと思い込んでしまった。さらに終盤に至ってメタフィクション映画の傑作である『蒲田行進曲』が前景化されていよいよ私の鼻息も荒くなったわけである。
つまり私はこう考えていた。『蒲田行進曲』は劇中劇に臨む役者を本物の役者が演じる、という構造を持つが、本作は各人が登場人物という役を演じつつ、度々、その役もかなぐり捨てて読み手にこんな風でよろしいか、と確認をとってくるような、そんな風に読めたのである。劇中劇に臨む役者を演じる役者、を演じる役者として本作内の登場人物たちは書き手たる滝口の操り人形でもなく、かといって読み手と共犯関係になるでもなく、テクストの中で自立していると読めなくはないか、と。
しかし事態は軟着陸してしまった。これはネタバレになるからどう軟着陸したかは述べないが、別にそんなに綺麗にまとめ上げる必要はなかったのである。投げっぱなしパワーボムで終わってくれりゃ、これは小島信夫を超えている、と堂々と書けたのに、と思ってしまった。
各エピソードの筋は良いし、センスは相変わらずあって、特別なドラマではないものの、きちんと読ませる辺りは流石とは思えただけに少々残念に思う。滝口悠生にはこんな風に日和ってしまわないで、もっともっと前衛的であってほしい、というのが読後の素直な感想。
- 感想投稿日 : 2020年9月23日
- 読了日 : 2020年9月23日
- 本棚登録日 : 2020年9月22日
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