殺しのパレード (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)

  • 二見書房 (2007年11月27日発売)
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本棚登録 : 169
感想 : 18
5

殺し屋ケラーシリーズ第3弾。
このシリーズはどれも短編集となっている。短編が苦手なわたしも、何故かこのシリーズは読める。愛って怖いですなー。もちろん、作者のローレンス・ブロックの語り口のうまさ、というのもあるのだけれども。

ケラーはニューヨークで一番の殺し屋。ドットという女性が、彼とクライアントとの窓口になっている。
ドットから「アイスティー飲みにこない?」と誘われると、ケラーはドットの家までいき、そこで殺しの依頼を聞く、というわけだ。


ケラーは殺し屋なので、もちろん殺しのシーンも出てくるのだが、このシリーズにおいて、そこはあまり重要ではない。どうやってターゲットに近づき、どうやってターゲットを殺すか、というサスペンスを求めてはいけない。
そもそもケラーの得意技は、「殺しに見せかけない殺し」なので、血なまぐさいシーンはほぼない。

ではこのシリーズの醍醐味は何かといえば、ケラーとドット、ケラーとターゲット、ケラーと偶然隣り合わせになった人、との軽妙でシニカルな会話だ。だから、この作者のこの語り口が苦手な人には、恐らく読み終われないだろう、と思うくらいだ。バーニィシリーズのような明るさでもなく、スカダーシリーズのように暗くもなく、なんともいえない空気がこのシリーズには流れている。
人間としてはバーニィと同じようにコミカルな人間なのだろうが、殺し屋という職業がそれを抑えているという感じだろうか。依頼を受けて人を殺す際に、何故この人は殺されるのだろう? と考えてみたりするシーンは、ケラーが殺し屋であるということを思い出させるシーンでもある。

また、プロの殺し屋とその仲介屋であるケラーとドットの関係がいい。同じ作者の泥棒バーニィシリーズの、バーニィとキャロリンの関係のように、信頼関係で結ばれた親友同志である。もちろん仕事は仕事で行うけれど、それを越えた信頼関係があるようで、それがまたすばらしい。
なんでも安易に恋愛関係にもっていこうとする昨今の傾向に、真っ向から反対しているようだ。

更に、作者に大きく影響を与えた事件として、9.11事件がある。作者はニューヨーク在住のようなので、さもありなんではある。
そのため、事件後に書かれた作品では、この事件をあえて描いている作品が多い。(でも、『砕かれた街』は、ブロック信者のわたしでも、さすがに面白くなかった)
ケラーも、この事件をきっかけにあることを考えている。そしてなんと、次回作にその決断が引き継がれ、更に、次回作でシリーズラストという訳者コメントが載っていた。
また、無条件で読んで大丈夫なシリーズがなくなっていくのか……。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ハードボイルド
感想投稿日 : 2015年7月25日
読了日 : 2008年4月8日
本棚登録日 : 2015年7月25日

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