ヒューマニティーズ 歴史学

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  • 岩波書店 (2009年5月26日発売)
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感想 : 8
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岩波のHPによれば、この「ヒューマニティーズ」というこのシリーズは「現在の人文学的知は,グローバル化のもとでの制度的な変動とも結びつきながら,新たな局面をむかえつつある.学問の断片化,細分化,実用主義へのシフトなど,人文学をとりまく危機的状況のなかで,新たなグランド・セオリーをどのように立ち上げるのか.その学問のエッセンスと可能性を,気鋭の著者陣が平易に語る」とのことである。

そこで、この『歴史学』という本がどのような「グランド・セオリー」を見通しているか。

「現代社会が「メディア社会」であるとすれば、メディア史こそ現代史なのである。私はメディア史を歴史学のフロンティアだと考えている」(p108)

このあたりに、「メディア史」のプロパーとしての矜持が感じられる。

それから、「歴史学は社会の役に立つのか」という問いを立てて、次のように答えている。

「歴史学の社会的使命の一つは、事実関係の整合性を検証することで他者とのコミュニケーションが成立する環境をつくることである。こうした理性的な討議の空間を生み出す公共性の歴史学を、私はメディア史と呼ぶ。それは単に、新聞、雑誌、放送などの歩みを記述する歴史学ではない。事実を論ずる枠組みの構築を目指すメタヒストリーである」(p100)

「理性的な討議の空間を生み出す公共性の歴史学」=「メディア史」はちょっと言いすぎなんじゃないだろうか…。たとえば古代や中世の歴史も「メディア史」ということになるんだろうか。基本的にこの本は近現代を対象とした歴史学が大半取り上げられているが、それだと前近代史の立場はいったいどうなるんだろうか、とちょっとひっかかるのである。

佐藤は「本書では「戦後史学」入門のキーターム、講座派、大塚史学などについてはあえて触れない」「ポストモダンの影響も受けていた一九八〇年代の学生にとって、「近代」を人間的に高い価値として仰ぎ見る思考に共感することはなかった」(pⅷ)という立場を取る。そういう「戦後史学」の洗礼を受けていない学者が、「歴史学」について自己の遍歴を中心に語るというのは、「戦後史学」を相対化するという意味で、有意義と言えるのかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2009年12月12日
読了日 : 2009年12月12日
本棚登録日 : 2009年12月12日

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