空が青いから白をえらんだのです: 奈良少年刑務所詩集

著者 :
制作 : 寮美千子 
  • 長崎出版 (2010年6月1日発売)
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5

 奈良少年刑務所の受刑者たちが書いた詩を集めたものである。所々に,編者(であり授業者である)寮さんの解説がある。この解説のお陰で,子どもたちが作った詩のチカラを改めて感じることができる。
 たとえば…

すきな色

ぼくのすきな色は
青色です
つぎにすきな色は
赤色です


というこどもの詩がある。こんな詩を学校の子どもたちが書いたとすると,おそらくほとんどの担任・指導者は,「もう少し工夫してごらん」などと言うのではないか。
 寮さんの解説にはつぎのような文章がある。

あまりにも直球。/いったい,どんな言葉をかけたらいいのか,ととまどっていると,受講生が二人,ハイッと手を挙げました。/「ぼくは,Bくんの好きな色を,一つだけじゃなく二つ聞けたよかったです」/「ぼくも同じです。Bくんの好きな色を,二つも教えてもらってうれしかったです」/それを聞いて,思わず熱いものがこみあげてきました。/世間のどんな大人が,どんな先生が,こんなやさしい言葉をBくんにかけてあげることができるでしょうか。(以下略)

 これが受刑者同士の授業風景である。寮さんは,あとがきの「詩の力 場の力」というところでも,つぎのように述べている。

 わたしは,彼らと合評をしていて,驚くことがあった。誰ひとりとして,否定的なことを言わないのだ。なんとかして,相手のいいところを見つけよう,自分が共感できるところを見つけようとして発言する。(p152)

 そして,そんな子どもたちの姿がどこから来るのか観察して,刑務所の先生方の姿勢に気づくのだった。

 先生方は,普段から,彼らのありのままの姿を認め,それを受けいれているというメッセージを発信し続けていらっしゃる。(中略)ともかく,いい機会さえ与えられれば,こんなにも伸びるのだ。それがなぜ,教室に来た当初は,土の塊のように見えたのか?(p152)

 「社会性涵養プログラム」の一環として授業を引き受けた寮さん。彼自身も,次のように受講者から学んでいる。

 わたし自身,詩を書く者であるのに,詩の言葉をどこかで信用していなかった。詩人という人々のもてあそぶ高級な玩具ではないか,と思っている節さえあった。/けれど,この教室をやってみて,わたしは「詩の力」を思い知らされた。(p.154)

 特にわたしの心に残った詩の一端を少し(ネタバレ)。

    ※

誕生日…産んでくれなんて 頼まなかった わたしが自分で あなたを親に選んで 生まれてきたんだよね

いつも いつでも やさしくて…くり返しがいいよ

クリスマス・プレゼント…ぼくのほんとうのママも きっと どこかで さびしがっているんだろうな 「しゃかい」ってやつに いじめられて たいへんで 

二倍のありがとう…ありがとう お父さん役までしてくれた ありがとう ぼくのお母さん

    ※

 ところどこにはさまれている,刑務所の建物や内部の写真。建物自体が詩的な雰囲気に見えてくる。

 本書には,本当はここに来るはずじゃなかった子どもたちの心の叫びと,そんな子どもたちがもともと持っている人間性を引き出す大人たちの世界が繰り広げられている。
 年に一度ある,刑務所の見学会に行ってみたいなと思ったが,今じゃ,この建物はホテルになっている?らしい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教育一般
感想投稿日 : 2019年8月7日
読了日 : 2019年8月7日
本棚登録日 : 2019年8月7日

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