論文捏造はなぜ起きたのか? (光文社新書)

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  • 光文社 (2014年9月17日発売)
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論文捏造はなぜ起きたのか?
著:杉 晴夫
光文社新書 714

各国で熾烈な競争が続く、生命科学の最先端で起きた、理研STAP細胞事件
その原因と、その背景にある文部科学行政の病理を描く

気になったのは以下

■理化学研究所

タカジアスターゼやアドレナリンの合成者である高瀬譲吉が渋沢栄一らの援助を得て設立した民間研究所が理化学研究所である

GHQは、理化学研究所を解体を命じ、生産部門は、科研製薬として分離、研究部門は和光に移転して、理化学研究所となった

STAP細胞事件が発生したときの、理事長は、ノーベル化学賞の野依良治
 背景としては3つ
 ①ノーベル生理学賞を受賞した京都大学のips細胞の権威、山中伸弥に対抗する
 ②STAP細胞を成功させ、政府の政策的予算を獲得する
 ③そして、その天下り先として、理化学研究所の事務部門を確保する

小保方氏1人に責任をなすりつけ、組織をまもろうとしたが、結果、調査委員会は総崩れ、所管の科学技術庁は、文部省に吸収合併されるに至っている

■生命科学史

日本

明治時代の研究者は、研究室に閉じこもるだけの学者ではなく実学の人々であった

・理化学研究所 高瀬譲吉
・北里柴三郎 コッホ門下なるも帰国後不遇に、福沢諭吉の援助を得て、北里研究所を創立
・山極勝三郎 ウサギの耳にコールタールをつけて、初の科学物質による発がんに成功
・鈴木梅太郎 オリザニン、ビタミン研究
・池田菊苗 グルタミン酸ナトリウム
・秦佐八郎 感染症に対するサルバルサンの開発、初の化学物質を使用する化学療法を創始
・野口英世 ロックフェラー研フレクスナーの寵愛を受ける。黄熱病の発見はまちがいか、バイタリティはあった

1930~1950 分子生物学 にて、ブレークスルーが起きる
・ロックフェラー研のエイブリー
1953 ワトソン、クリックのDNA2重らせん構造の発見、分子遺伝学の興隆
 核酸研究へ
1987 利根進ノーベル生理学・医学賞授賞 分子免疫学

DNA解析にてもアメリカからの圧力がなければ日本は引き気味であった

<科学史上データ改ざんは何度もあった>
・ガリレオ、ニュートン、メンデルにも改ざんの疑い
・ロックフェラー研リップマン研究室
・コーネル大学スペクター事件
・マサチューセッツ総合病院 論文捏造 培養細胞はフクロウザルのもの
・ピルトダウン人 人骨捏造事件
・神の手、藤村新一、旧石器捏造事件
・北朝鮮 キム・ポンハン事件 ツボの研究

■日本の科学行政

寺田寅彦氏の言
我が国では、自国民の独創活動を軽視してその芽を摘み、一方欧米で発展した研究分野をありがたがり、これをそっくり輸入して模倣し、何年かしてやっと彼らの研究レベルに追いついたと自賛する
しかし、そのころには、欧米で別な独創的研究が半ば出来上がっている

■学術誌ネイチャーの実態

・ネイチャーは、露骨な商用主義による、論文のえり好み
・査読という、論文チェックも、権威者ではなく、未熟で無知な研究者も加わっている
・PLOSというアクセス・フリー学術誌の台頭
・雨後の竹の子のごとく、PLOSを模倣する劣悪なフリー学術誌の乱立している
・サイエンスもフリー学術誌の論文には、独自の調査を行っている

■日本の大学改革の状況

・国立大学を法人化させて、これまでの文部科学省・大学の対等な関係から、主人と使用人の関係へ変質
・通常予算を削減し、国家的要請のある研究に予算を配分、役立たずと思われた研究室は姿を消していった
・研究者は、競争的研究資金を獲得しなければ、学会への出席に自費でゆかなければならない状況に陥る
・教授の数は維持できても、助手が減り、学生の面倒や、助手自体の研究もできないことに

・予算申請しても、日本では、NGの理由も公表されることはない
・研究費用のチェックや、申請そのものも、密室で、かつ、権威者が行っているわけではない、予算がついていない
・一方、巨額予算をつけてもらっても、使うのが大変、高価な家具やPCに囲まれていた小保方研究室、予算の執行に対するチェック機能もない。逆に予算を使い切ってしまうと、4,5月の空白期間になにもできなくなってしまう

・しょせん、日本の教育行政、科学行政は、政府の関連省庁内のほんの一握りの人々によって立案実行されている

■ips細胞の真相 山中氏 宝くじにあたったようなもの ⇒ 非常な運に恵まれた

受精卵の初期では、どんな組織、器官への細胞にも分化しうる
発達してくると、特定細胞にしかならなくなる
⇒このままでは、受精卵とはいえ、人間なのであるから、尊厳をもっている
⇒そこで分化した細胞を、初期状態へ戻すことが研究テーマとなる
体細胞から、万能細胞を抽出する方法にて、取り出した細胞をips細胞と命名した

目次
はじめに
第1章 理化学研究所STAP細胞事件とは
第2章 研究者はなぜ、データを捏造するのか
第3章 明治時代の生命科学の巨人たちはいかに活躍したか
第4章 近年のわが国の生命科学の沈滞
第5章 科学史上に残る論文捏造
第6章 分子遺伝学の歴史と、今後の目標
第7章 わが国の生命科学の滅亡を阻止するには
おわりに
主要参考文献

ISBN:9784334038175
出版社:光文社
判型:新書
ページ数:256ページ
定価:760円(本体)
発売日:2014年09月20日第1刷

読書状況:いま読んでる 公開設定:公開
カテゴリ: 自然科学
感想投稿日 : 2024年3月27日
本棚登録日 : 2023年1月3日

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