本書は、政治哲学の大テーマである「正義とは何か」について、ジョン・ロールズをベースにしながら(著者はロールズの『正義の理論 改訂版』2010年の共訳者の一人)、リベラリズム、リバタリアニズム、コミュニタリアズム、フェミニズム、コスモポリタニズム、そしてナショナリズムそれぞれの思想から平易に論じたものである。
6つの思想潮流がすべて西欧起源の思想であり、その点、現代のグローバルな諸問題にアプローチする限界がありはしないかという疑問は湧くにせよ、ロールズやノジック、サンデル、セン、ヌスバウムなどの思想がとてもわかりやすく書かれており、ポスト・ロールズの思想について勉強になった。
経済学を勉強する我々にとっても馴染みの深いアマルティア・センは、「人間のアイデンティティはたしかに共同体のなかで形成されるけれども、人間は文化的伝統から離れて合理的判断を下しつつアイデンティティを形成してゆくこともできる」(p.143)とコミュニタリアズムを批判し、また「ロールズの契約説が「閉ざされた不偏性」を伴うものであるとして、それよりもスミスの「開かれた不偏性」にこそ、地域的偏狭性を反省する可能性があるとしています」(p.144)とロールズ批判も展開する。センはスミスを高く評価しているらしいが、まさにその通りだと思う。
しかし、現実のグローバル社会にはたして「公正な社会」は可能なのか(正義は実現されるのか)、その哲学的な基盤はまだまだ確立されたものとはなっていない。
余談:もう17年前になるが、2003年にケンブリッジ大学に遊びに行ったとき、散歩しているセン(当時、トリニティカレッジの学寮長)を偶然見かけてちょっと感動したことを思い出した。
センはインド出身なので、上記に書いたような西欧哲学の本流から少し離れていることもプラスに働いているのではないかと思う。
- 感想投稿日 : 2020年5月25日
- 読了日 : 2020年5月25日
- 本棚登録日 : 2020年5月18日
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