苦役列車 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2012年4月19日発売)
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 小学校の頃はクラスの人気者で、学級委員も度々と務めていた北町貫多。が、父親が性犯罪者として逮捕され、住み慣れた街を姉、母と逃げ出すように後にしてから、貫多の人生は大きく流れを変えていく。将来を悲観した彼は、15歳の時、母親の金を持ち出して家出。
 当然15歳の貫多に、働き口などなく、困りに困った彼がたどり着いたのは、履歴書不要の日雇い労働。以来、時折母親に泣きつきながらも、日雇いで日銭を稼ぎ、飲み食いや風俗通いに使い切る日々。誰とも深くかかわることもなく毎日を過ごしていた貫多に、初めて友達らしき存在が。言葉を交わし、共に食事をし、貫多の生活が変わっていくかに見えたが…。

  のっけから、う~んという感じなのですが、文体が調子よくて、なんだか近代小説を読んでいるような気分。主人公への視線も程よい距離感なのが意外といい感じ。しかし、ありったけ飲み食いして、家賃を払えなかったり、母親に泣きついたりしながらも、風俗に行くお金はきっちり貯めたり、服装に気遣わないようで、そうじやお風呂はきちんとしてたり、貫多って、だらしないのか、しっかりしてるのか…。
 素直になれず、屈折している貫多。おいおいって、共感もなんにもできないのですが、なんか気になってしまう存在。後年の貫多を描いた「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の彼も、やっぱりトホホな感じ。それにしても「ぎっくり腰」って大変そう。
 曩時北町貫多って何?名字?とか思ったら、曩時(のうじ)とは「さきの日、昔」という意味らしい。ほかにも、辞書をひきたくなるような難しい漢字や言い回しがたくさん出てきます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ナ行の作家
感想投稿日 : 2012年8月31日
読了日 : 2012年8月30日
本棚登録日 : 2012年8月30日

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