空気を読む脳 (講談社+α新書)

著者 :
  • 講談社 (2020年2月20日発売)
3.49
  • (53)
  • (129)
  • (142)
  • (39)
  • (7)
本棚登録 : 1758
感想 : 156

たとえば「体育会系男子が高評価なわけ」
〈昭和的、などど揶揄されることも多いと思いますが、上意下達の組織では上の命令は絶対であり、言葉として明示されない意思を忖度する能力の高さが求められ、そこには「空気を読んで」行動することが良しとされる価値基準が存在します〉
で、私たちは日大アメフト部事件を思い出します。

歴史ある大手企業ばかりでなく、新興のIT系企業ですら、"体育会系男子の人材"を必要としているフシがあります。
〈彼らは非常に"使い勝手"が良い。こうした組織の中では、和を乱さぬよう自分を適度にアピールし、評価を高めていくスキルはきわめて重要なものであり、学歴や本来の職能以上に重視されます〉

それに対して次の問題があげられます。
〈だからこそ、女性で医師を目指す受験生は、いかに点数が良くとも、排除されるのです。医師ばかりでなく、働く女性も排除されるという構造があります。今もなお、そうした構造は根強く残っているのではないでしょうか。
読めないタイミングで結婚し、出産し、育児をする女性は実に"使い勝手"が悪いと評価されてしまいます。くり返しになりますが、東京医科大学から露見した入試の女性差別の問題は同大学だけではありませんでした。日本社会全体に存在する大きなひずみが端的に現れただけと言えるでしょう〉

この二つの事件を比較するのは、とても面白いと思いました。
このように確かにこの本では「空気を読む」ことについてたくさん書かれています。
でもそれだけではないんです。

Web メディア「現代ビジネス」で2018年4月から約半年にわたって連載した「日本人の脳に迫る」に加筆修正したもの。
なんで改題しちゃったのかな?

どれも面白かったけど、もう一つ興味深いと思ったこと。
〈「善悪と美しさが脳で混同される」
美を感じる脳の領域は前頭前野の一部、眼窩前頭皮質と内側前頭前皮質だと考えられています。眼窩前頭皮質は前頭前野の底面にあり、眼窩のすぐ上に当たる部分なのでこのように名付けられています。
この部分は一般に「社会脳」と呼ばれる一群の領域のひとつで、他者への配慮や、共感性、利他行動をコントロールしているということがこれまでの研究から示されています。
内側前頭前皮質はこの近傍のより内側にあり、ここはいわゆる「良心」を司っている領域ではないかと考えられています。自分の行動が正しいか間違いか、善なのか悪なのか、それを識別する部分です〉

つまり、美しい、美しくないという基準と、利他行動、良心、正邪、善悪等々は理屈のうえで考えればまったく別の独立した価値なのに、脳ではこれらが混同されやすいということが示唆されるそうなのです。

そのあとにカッコ書きで、次のようにあったのです。
(ほかには、女性では恐怖と性的な快楽の中枢が回路を共有しているなどの例があります)

これはもともとの「日本人の脳に迫る」、ましてや「空気を読む脳」からそれた内容なのですが、私にとっては却ってサブリミナル効果みたいになってしまいました…。

とにかく、脳や遺伝子に翻弄される私たち。
中野信子さんの本11冊目。
今回もとっても面白かったです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ☆科学☆
感想投稿日 : 2020年6月19日
読了日 : 2020年6月19日
本棚登録日 : 2020年6月19日

みんなの感想をみる

ツイートする