古代日本の超技術 改訂新版 (ブルーバックス)

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  • 講談社 (2012年12月21日発売)
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毎年、初詣などで神社仏閣系の場所を訪れると、心なしかほっとした気分になる。めまぐるしい変化にさらされている昨今、何年も変わらぬ佇まいを見るということは落ち着くものだ。

世界最古の木造建築である法隆寺五重塔をはじめ、日本には古代からの木造建築が、今でもたくさん現存している。周辺の建物が様変わりしていく中、なぜこれほどもの長い間、これらの建築物は風雪に耐え抜くことができたのか。

答えの一つに、「古代人」の技術が「現代人」の技術を上回る要素を持っていたということが挙げられる。そんな馬鹿なと思うかもしれないが、紛れもない事実なのだ。本書はそんな、1000年を耐えぬいた古代人たちの技術や思想を紹介した1冊である。

たとえば釘。現代の釘は外に出しておくと10年も経たないうちに真っ赤に錆びてしまうが、飛鳥時代の釘はおよそ1300年ものあいだ新品同様の状態を保っており、この先1000年使っても大丈夫と言われているほどである。古代の釘が朽ちないのは、純度、環境、そして高度な鍛錬を行なっていたからなのだという。

瓦も同様である。古代の瓦は、雨の日は木造建築物の天井裏から室内の湿気を保湿し、天気になればそれを屋根から蒸発させる。つまり自ら呼吸をし、屋内の湿度調節をすることによって、高温多湿の日本の気候から、古代木造建築物を内からも守ってきたのだ。

最先端技術を駆使して量産されている現代瓦が古代瓦に劣る。これは一言でいえば、現代の技術が「生産性」「経済性」「効率」にひたすら応えようとしてきたことの裏返しにほかならない。自然を活かし、自然に活かされていた古代日本の技術が、この方向に舵を切り始めたのは室町時代以降から。それはまた、日本に「成金文化」が栄え始めた時代でもあったのだという。

釘、瓦などの部品のみならず、建物が長期に渡って現存するためには、地震などの天災に対処する術も持っていなければならない。これを可能にしているのが、五重塔などに見られる心柱である。これが制振のシステムとして極めて重要な役割を果たしているのだ。

心柱の直接的な役割は、当の先端部にある相輪を支えることである。つまり、もっとも太い柱であるにもかかわらず、心柱は塔の荷重を支えることにはまったく貢献していない。それゆえに、心柱はちょうど観音開きの扉を固定する閂のような働きを行い、高度の耐震性能を決定づけているのだ。

じつはこのような”心柱制振システム”は、日本古来の木塔に必ず使われている「古代日本が誇る伝統的技術」であるそうだ。地震国である日本にあって、木造の高層建築物である木塔が、地震で倒されたという記録はほとんど残されていない。

だが、本当に驚くのはここからである。昨年開業した東京スカイツリー。この塔のど真ん中にも、鉄筋コンクリート製、高さ375mの”心柱”を挿入した「世界初」の制振システムが使われているのだ。世界一の高さを誇る塔に「古代日本の心柱」である。これなどまさに、現代の最先端技術と、古代日本の超技術との邂逅とも言えるだろう。

釘、瓦、心柱。これらは建物というプラットフォームにおいては一つのパーツに過ぎない。ただ、パーツに特化しているがゆえに、その技術は輪廻転生のように、長いあいだ繰り返し使われ、常に最先端のポジションを維持することができたのだ。本書で描かれているのは、そんな脇役たちの華麗な競演だ。

本書ではこの他にも、木目に沿って伐り倒した木を打ち割る木材加工技術や、鉄線を使って粘土をスライシングする瓦の成形工程などが紹介されている。著者は、長年、半導体結晶に関する技術に従事してきた人物。これら古代の技術が、今でも半導体の結晶の切断などに応用されていると、驚きを隠さない。

よし、今年はこのイメージで行こう。本の文脈に沿って、鉄線でスライシングしたような書評。う〜ん、ちょっと違うかな。

そんなわけで、皆様、本年もどうぞよろしくお願いします!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: サイエンス
感想投稿日 : 2013年1月13日
読了日 : 2013年1月13日
本棚登録日 : 2012年12月22日

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