カティンの森 (集英社文庫)

  • 集英社 (2009年10月20日発売)
3.63
  • (3)
  • (15)
  • (11)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 139
感想 : 15
4

(2010.04.06読了)
アンジェイ・ワイダ監督の映画「カティンの森」の原作本です。映画のために書かれた本なので、映像を意識した文章になっています。
「カティンの森」と言うのは、第二次大戦中にソ連軍に連れ去られた1万5千名のポーランドの将校が、カティンの森の他全部で3か所に分けられて虐殺された事件の呼び名として使用されています。
事件が明らかになったのは、1943年4月、ソ連に攻め込んだドイツ軍が、カティンで虐殺された数千人のポーランド将校の遺体を発見したことによります。
国際委員会が調査し、「40年春にソ連が虐殺した」と結論付けました。
1943年9月にカティンを取り戻したソ連は、1944年1月に調査結果を発表。ポーランド将校を虐殺したのは、ドイツで、時期は41年秋。ドイツ軍は、43年の調査の際、死体の衣類から1940年4月以降の日付のある一切の記録文書を取り除いて再び死体を墓に戻した、と発表。
1945年からの共産党政権下では、カティンの森に関することはタブーとなった。
1990年に、ゴルバチョフ・ソ連大統領がソ連の犯行と認め、ポーランドに陳謝。
虐殺が行われたのは、1940年4月~5月と言うことです。目的は、知識人や指導者となりうる人を取り除き、ソ連の言いなりになる政権をつくるためです。

物語は、1945年5月ごろ、戦争が終わり、兵士が少しずつ帰還してきており、共産党政権も動き出している時期に設定されています。
おばあさんと、母と、高校生の娘の3人家族が主人公です。
祖母は、ブシャ。母は、アンナ。娘は、ヴェロニカ、愛称ニカです。
アンナの夫であり、ヴェロニカの父、アンジェイ・フィリピンスキ少佐の帰還を待っています。カティンで死亡した人たちの名簿に入っていたのですが、名前が微妙に違うし、名簿に乗っていた人の中で、帰還した人がいるので、実際に死亡を確認できる証拠を見るまでは、死亡を認めることはできません。
娘のニカは、現在を楽しみたいのですが、アンナは、夫の思い出のみに生きています。
気持ちのすれ違いは、やむを得ないことなのですが、・・・。
ある日、アンジェイ少佐の元部下が訪れ、少佐のことを調べる手伝いをしてくれることになります。元部下のヤロスワフ大佐は、ソ連に協力したので、殺されずに済みました。
ヤロスワフ大佐は、カティンの森での発掘現場を見て、その際仲間が殺された薬莢を拾ってきていました。その他の証拠を入手しようとしますが、密告によって捕まってしまいます。密告したのが、ニカの恋人のユルだったのです。
ユルの兄が反政府活動で捕まり、兄を助けてもらう約束で密告したのですが、約束は果たされませんでした。その上、ユルも捕まってしまいます。
ニカも母親と同様、待つ人になり、母親の気持ちが分かるようになります。
ヤロスワフ大佐の仲間によって、アンジェい少佐の遺品が、アンナのもとに届けられました。遺品となった手帳をアンナとニカで少しずつ読む日々が始まります。
カティンに連れて行かれ殺される直前までの様子が分かるようになっています。

●ソ連での俘虜生活(161頁)
「あそこにいたのは、えりすぐりのインテリゲンツィアです―教授、医師、技師、学者。一人残らず、子どもに様に純真だった。」
家族宛の手紙は月一回、切り取り式の手紙発送許可証を使う。入浴も禁じられていた。衛生状態は、家畜以下だった。野戦病院とは名ばかりで、死に場所も同然。そこで私たちは、戦時俘虜に関する国際赤十字のジュネーヴ協約の適用を主張した。所長からどういわれたと思います?「ジュネーヴだの赤十字だの、そんな協約はロシア人には無関係」
●共産主義の美点(221頁)
「共産主義の唯一の美点は、そこの世界では、誰も孤独ではないということだ。誰に対しても、守護天使がついてまわるから。人は脅されれば沈黙する―それが、連中の狙いさ」
●ホラティウスの詩句(285頁)
この日を楽しめ。明日の日はどうなることかわからぬから
●死とは(342頁)
死ぬとは存在しなくなることではない。存在しなくなるのは思い出の持ち主がいなくなった時だ。

☆関連書籍
「ワルソー・ゲットー」リンゲルブルーム著・山田晃訳、カッパブックス、1959.12.05
「ワルシャワ物語」工藤幸雄著、NHKブックス、1980.08.01
「ポーランド 労働者の反乱」芝生瑞和著、第三書館、1981.05.10
「ワルシャワ貧乏物語」工藤久代著、文春文庫、1985.06.25
「ワルシャワ猫物語」工藤久代著、文春文庫、1986.07.25
「カチンの森とワルシャワ蜂起」渡辺克義著、岩波ブックレット、1991.06.13
「戦場のピアニスト[新装版]」ウワディスワフ・シュピルマン著・佐藤泰一訳、春秋社、2000.02.10
「戦場のピアニスト」ロナルド・ハーウッド著・富永和子訳、新潮文庫、2003.02.01
「天の涯まで ポーランド秘史(上)」池田理代子著、朝日新聞社、1991.06.05
「天の涯まで ポーランド秘史(下)」池田理代子著、朝日新聞社、1991.06.05
(2010年4月8日・記)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学
感想投稿日 : 2010年4月8日
読了日 : 2010年4月6日
本棚登録日 : 2010年4月6日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする