淳 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2002年5月29日発売)
3.66
  • (28)
  • (30)
  • (49)
  • (3)
  • (4)
本棚登録 : 422
感想 : 43
5

(2015.05.25読了)(2010.11.17購入)
「犯罪被害者の声が聞こえますか」東大作著、を読んだ後に、この本を読もうとしていたら、テレビのニュースで、著者の土師守が事件について話していました。18年前の5月24日が事件の発生した日だったのです。
特に意識せずに読み始めた本が、読んでいる前後の日付と、何らかの意味のある人重なることが、たまにありますね。
1997年5月24日、土師淳君・小学6年、が昼過ぎに出かけたきり戻らなかった。親族や近所の方々、警察の方々による懸命の捜索にもかかわらず、見つからなかった。
変わり果てた姿で見つかったのは、5月27日の朝でした。
29日に通夜、30日に告別式を行いました。
6月28日夕方に犯人が逮捕されました。中学3年の男子生徒でした。
淳君の同級生の弟がいるので、淳君も時々その家に遊びに行っていたのだそうです。
この本は、淳君の父親によって書かれたものです。淳君の生い立ちから、事件の際の捜索の様子、マスコミによるいろんな形での妨害行為、心ない一般の方からの嫌がらせ、犯人逮捕後のもどかしさ。犯人が少年法によって保護されているために、犯行の動機などの被害者親族が知りたいことがまったくわからないのです。
そこで、少年法の改正の運動を行い、いくらかの成果を得ることができました。
少年法への思いは、妻と幼い子供の命を18歳の少年によって本村洋さんも同じなので、解説に詳しく、少年法の問題点を述べています。

【目次】
誕生と成長
永遠の別れ
変わり果てた姿
捜査
犯人逮捕
少年と人権
不信
報道被害
少年法
供述調書
卒業、そして一周忌
あとがきにかえて
文庫版あとがき
解説  本村洋

●罪の自覚(144頁)
今回の事件をきっかけに、少なくとも、自分の犯した罪を自覚させ、そのことに対する償いについては、きちんとやらせるという人間社会の当たり前のルールや心情に貫かれた考え方の上で議論がされることを私は望みます。
●少年法の壁(167頁)
被害者の親として、せめて審判決定書の全文を見ることぐらいできないものか。
審判の行われた家庭裁判所に被害者の親が出席できないのなら、せめて、法的代理人である弁護士くらいは傍聴させられないものか。
「せめて両親の供述調書と、A少年の精神鑑定書くらいは見せてもらえないでしょうか」
私は、審判に出席するという直接的な手段が不可能だとしても、事件の真相を知るために事件前後の両親の行動を知りたいと思い、これを要求しましたが、それもかないませんでした。
●マスコミの事件報道(185頁)
被害者側の人間が見て嫌悪感を催すような報道や取材は、慎むべきだということです。

☆関連図書(既読)
「犯罪被害者の声が聞こえますか」東大作著、新潮文庫、2008.04.01
「なぜ君は絶望と闘えたのか」門田隆将著、新潮文庫、2010.09.01
「犯罪と刑罰」ベッカリーア著・風早八十二訳、岩波文庫、1938.11.01
「裁判員制度の正体」西野喜一著、講談社現代新書、2007.08.20
「裁判員法」船山泰範・平野節子著、ナツメ社、2008.06.09
「裁判員のための刑事法入門」前田雅英著、東京大学出版会、2009.05.15
「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」北尾トロ著、文春文庫、2006.07.10
「裁判長!おもいっきり悩んでもいいすか」北尾トロ・村木一郎著、文藝春秋、2009.05.15
「ぼくに死刑と言えるのか」北尾トロ著、鉄人社、2009.07.30
「きみが選んだ死刑のスイッチ」森達也著、理論社、2009.05.21
「殺人者たちの午後」トニー・パーカー著・沢木耕太郎訳、飛鳥新社、2009.10.20
「あなたが裁く!「罪と罰」から「1Q84」まで」森炎著、日本経済新聞出版社、2010.11.05
(2015年5月26日・記)
(「BOOK」データベースより)amazon
「おじいちゃんのとこ、いってくるわ」ドアの閉まる音がして、淳は家を出ていきました。これが、私たち家族と淳との永遠の別れになってしまいました―。1997年5月に起きた「神戸連続児童殺傷事件」。14歳の少年に我が子を奪われた父が綴る鎮魂の手記。眼を細め見守った息子の成長から、あの忌まわしい事件の渦中の出来事、そして「少年法」改正に至る闘いまでを、被害者遺族が詳細に描く。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 事件・事故・災害
感想投稿日 : 2015年5月26日
読了日 : 2015年5月25日
本棚登録日 : 2015年5月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする