狙われたキツネ (ドイツ文学セレクション)

  • 三修社 (1997年3月1日発売)
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感想 : 3
4

(2009.12.09読了)
チャウシェスク大統領時代のルーマニアを描いた小説です。
主人公は、小学校教師のアディーナと工場労働者のクララという二人の女性です。
ふたりの生活を通しながら、ルーマニアの都市生活の状況が描き出されています。いまから20年前にこのような現実があり、北朝鮮では、いまなお、ここで描かれているような生活があるのかもしれません。
国のすべてが、指導者とその親族、一部特権階級のために奉仕するという仕組みになり、反抗的人間及び反逆を企てる組織がないか徹底的に監視する組織が作られる。
「狙われたキツネ」も、秘密警察が合鍵を使って、アディーナの部屋に入り、監視していることを知らせるためにキツネの毛皮をすく死ずつ切り取ってゆくことを表していると思われる。

●人はいつ死ぬ?(24頁)
「刈り取った髪の毛を頭陀袋にぎゅうぎゅう詰めこんでいくんだ。そのうちそ頭陀袋がご本人の体重と同じ重さになる。そうなったらそいつは死んでしまうのさ、」
●リンゴの虫は食べられる(27頁)
「ただのリンゴの虫じゃない」とアディーナは言う。「この虫はリンゴの中で生まれ育ったんだし、リンゴでできているわ。きれいなものよ」
●工場で怪我人が出ると(152頁)
怪我人の頭を支え、グリゴーレがむりやり口を大きく開かせる。それから工場長が、平たく手にぴったり収まる酒のポケット瓶を上着から取り出して、ツイカを怪我人の口に流し込む。グリゴーレは作業塔の中に向きなおって言う。
「いいか、クリーズは朝っぱらから酒に酔っていたんだ。やつは職場で酔っぱらってたんだからな」
●地獄では(265頁)
「ごく普通のルーマニア人が死んで地獄に堕ちた。地獄はすごい人ごみだ。みんな熱い泥の中にあごまでつかっている。ところが中央の悪魔の席のそばには膝までしか泥につかっていない男がいる。チャウシェスクだった。そこでルーマニア人は、『正義はどこにあるんだ、あの男は俺よりも罪深いぞ』と悪魔にくってかかった。悪魔が答えて言うには、『その通りだ、だけどあの男は女房の頭の上に立ってんだよ』」
●国境の村(308頁)
村人があんなにたくさんの犬を飼っているのは、吠え声で銃声を聞かずに済ませるためなんだ。それに彼らがニワトリじゃなくてガチョウを飼っているのも、ガチョウなら一晩中ガアガア鳴くからなんだよ。
●独裁体制では(349頁)
「どうすればよかったというの?」
「男たちには愛する妻がいたし、女たちには子供がいた。そしてその子どもたちはお腹をすかしていたんだもんね。」

(今、ルーマニアは、どれだけ変わったのでしょうか?)

☆関連図書(既読)
「ルーマニアの小さな村から」みやこうせい著、NHKブックス、1990.04.20
「チャウシェスク銃殺その後」鈴木四郎著、中公文庫、1991.04.10

著者 ヘルタ・ミュラー
1953年、ルーマニア・ニツキードルフ生まれ
ドイツ系少数民族の出
母語はドイツ語
ティミショアラ大学卒業(ドイツ文学、ルーマニア文学)
金属工場で技術翻訳の仕事に就く
1979年、秘密警察への協力を断ったために職場追放
代用教員をしながら創作活動
1982年、「澱み」をブカレストで発表
1987年にドイツに出国
1989年12月25日、チャウシェスク夫妻公開処刑
1992年、「狙われたキツネ」発表
現在はベルリン在住
2009年、ノーベル文学賞を受賞
(2009年12月16日・記)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外文学
感想投稿日 : 2009年12月9日
読了日 : 2009年12月9日
本棚登録日 : 2009年12月9日

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