低地 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2014年8月26日発売)
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本棚登録 : 568
感想 : 65
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『停電の夜に』『その名にちなんで』についで、ラヒリ3作目。いつものことだが、読了後に他の方のレビューや書評を読み比べ、自分の読後感や読み落としなどをチェックする。この作品ほど、人によって読む観点がそれぞれなんだな、と感じた作品も珍しかった。

作者はこの作品で、性格の真反対な兄弟を登場させ、陰―スバシュ―ロードアイランド vs 陽―ウダヤンートリーガンジ と対比させ、その心象風景として見事に描いている。それはラヒリが米国とインドのふたつの故郷を持つがゆえに持ち続けた、2カ国への想いとも受け止められる。彼女は陰と陽、真逆の立ち場にあるものを、どちらが良いとか悪いとかではなく、それを第三者的な視点から描きたかったのでは、と私は思う。
それに対し私は、自身の性格か、長子として生を受けたためか、"陽"には敵わないと感じてきたし、自身が信じる正義のため若くして亡くなった人物には勝ち目がないと、ついついスバシュに感情が入ってしまう。人間は"努力"だけではどうしようもない"持って生まれた役割"が有るのだと思う。スバシュが行きている限り、彼の中でウダヤンは生き続け、葛藤は続く。インドを去り、米国に渡り自分の居場所を見つけ、ウダヤンの妻子を引き取ることで、どこか自分が優位な立ち場に立てるのではと、結果的には考え違いをしてからも。娘として育てたベラの想いにより、そして亡き友人の妻を伴侶にすることで最終的には報われているはずなのだが。

この物語の前半の、政治色の濃い、共産主義や革命運動といった、少々苦手な内容さえも、ぐいぐいと惹きつける勢いを感じたのに、『その名にちなんで』に引き続き、後半に違和感を感じた。人の"死"や"出逢い"が安易というか、都合よく描かれているな、特にラヒリが"アメリカ人"と表現していると人たちが、と。その点、残念に思われた。
そこが、ラヒリの作品は短編のほうが良いと感じる理由だろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年12月4日
読了日 : -
本棚登録日 : 2023年11月1日

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