生き物が大人になるまで~「成長」をめぐる生物学

著者 :
  • 大和書房 (2020年7月22日発売)
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感想 : 27
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家で飼っているグッピーが最近子どもを産んでいます。
生まれるとすぐに泳げるし、エサも自分で探して食べます。
これって凄いことだと見ていて感心します。
2~3ミリくらいの体が日に日に大きくなり、いつの間にか3~4センチ程に育ちます。
生まれた時から小さな大人という感じでしょうか。

生むのは卵か赤ちゃんか。
子育てをするか否か。
大きくなるのか質を変えるのか。
子ども時代が長いか短いか。
本能のみにたよるか知能を活用するか。

生き物に関して、このような話題について書かれている本を読むのが好きです。
昆虫はトンボやチョウやカブトムシのように親子が別の生物にしか思えない不思議な成長をします。
カエルもそうですが、親子で明確に形態が違う生き物は、大人になった時期が明確です。
なぜ、このような成長の仕方になったのかという疑問は解決されないままですが、興味が失せることはありません。

『第3章 「ふつう」ってなんだろう』 あたりから、人間という生き物を見つめなおす方向に話が進んでいきます。

普通の犬ってどんな犬?ふつうの花やふつうの顔って何?
「ふつう」は、平均値という便利な道具を作り出した人間が好んで使う言葉。
これが「ふつう」なんて明確な定義ありません。

どんな動物でも3~4年もあれば立派な大人になるのが「ふつう」ですか?
「5歳になったら一人前になって独り立ちするなど、人間ではとても考えられない。」言われてみれば確かにそうです。
ヒトは、なんと成長が遅い生き物なんだろうと思います。
10歳でも子ども。20歳でやっと成人?
ゆっくり大人になる戦略をとった人間は奇妙な生き物です。

親のために子供が犠牲になる生き物はいません。
未来の世代を犠牲にして今を生きようとする生き物はいません。
これが「ふつう」の生き物だとすると、「ふつう」でないのは人間だけです。

そして、「成長するってどういうこと?」という話題に入っていきます。

成熟してこそが成長、いくら体が大きくなっても未熟のままでは成長とは言えません。
生き物は単に大きくなることでなく、質を変え成熟することを目指しています。
経済や社会も同じではないでしょうか。単に右上がりに数字が伸びていくことが成長でしょうか?と問題提起しています。

生き物には成長する力が備わっています。頑張ったから成長できたわけではありません。
草が芽を出し、葉を茂らせ、花を咲かせるのは頑張ったからではありません。
人がハイハイし、立てるようになり、歩いたり走ったりできるようになるのは頑張ったからではありません。
時期が来れば自然とそうなるようになっているのです。と、頑張ることを美化しすぎる社会を風刺しています。

この本の表紙をめくると、そでの部分に「知ると、人間が見えてくる。」と書かれています。
さまざまな生物の多様な成長の仕方を題材にして、人間にとって大切なことを考えてみようといった子供向け(小学生には無理かな)の本です。
この本のカテゴリは"生物学"になるのでしょうが、本質はチョット違っていました。
生物としてのヒトの特性や成長戦略と、他の生物が選択している成長の姿(生存戦略)を根拠として、人間の生き方を考えるという新鮮な体験ができました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: *稲垣栄洋
感想投稿日 : 2020年10月7日
読了日 : 2020年10月7日
本棚登録日 : 2020年9月22日

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