「エレジー」という言葉は久しぶりに聞く。
まず脳裏に浮かぶのは、あがた森魚の「赤色エレジー」だ。… 愛は愛とて何になる男一郎 まこととて 幸子の幸は何処にある男一郎ままよとて
だが、この物語は餅湯温泉という温泉町が舞台なので、伊東温泉を唄った「湯の町エレジー」が本書のタイトルの「エレジー」の正体みたいだ。
そしてかつてのような賑わいはなくなってしまった餅湯温泉であるが、「エレジー」は流れない(似合わない)!という話だ。
なぜか母親が2人いる高校生が主人公。この謎解きも1つのポイント。
本人はその理由をしらないが、町の人達は知っていたりする。
よそ様の家庭のプライベートなことも筒抜けな観光地の人達との日々の暮らしの話。
大きな事件が起こるわけでもなく、ありきたりな日常が繰り返され高校3年生になり、この先どうなるかなんて分からないままボヤーっと進路を決める夏で物語は終わる。
本書のテーマの1つは「迷惑」との接し方なんだろう。
社会で生きていれば大なり小なり必ず迷惑をかけるし受けもするのが当然だと知っておきなさい!ということ。
相手が受け止めきれない「迷惑」はかけない気づかいも必要だし、時にめんどくさい「迷惑」を受け入れる寛容性も必要だ。
「迷惑」をかけ合って人と人の繋がりができ「友情」や「愛」が生まれる。
何処に行っても冴えないゆるキャラがいたりする今日。
この場所も「もち湯ちゃんストラップ」があり、餅湯温泉の(エレジーではない)能天気なメロディーが駅前のアーケードに流れている。
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三浦しをんさんと言えば、辞書編集とか林業とか生物学の研究など、特殊な世界を垣間見せてくれる作家さんというイメージもあったが今回はそうではなかった。
- 感想投稿日 : 2021年8月11日
- 読了日 : 2021年8月11日
- 本棚登録日 : 2021年6月30日
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