ぶどう酒びんのふしぎな旅

  • 講談社 (2010年4月13日発売)
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本棚登録 : 240
感想 : 38
5

なんと懐かしい。読みながらどんどん記憶があふれ出した。
これは、私が子供の頃初めて読んだ、藤城清治さんの影絵本だ。
確か当時はモノクロだったと思う。
お話の初めに登場するお嬢さんと、最後に登場する老婆が同一人物で、せっかくぶどう酒びんと再会できたのに互いにそれを知らないというラストにひどく納得がいかなくて、心にひっかかったままだったのだ。
影絵の美しさとお話の不思議さ、そしてこのラストとで、長年心の奥に住み続けたお話。

藤城さんが26歳の時初めて世に出した影絵の絵本で、原作はアンデルセンの『びんの首』。
紆余曲折するびんの一生を、びん自身が語るというもの。
60枚すべての絵に、人生の喜びや悲しみやはかなさが照らし出されて、この不思議なお話に深い叙情性を与えている。

絵本デビューから60年目にあたる86歳の誕生日を目標に、カラー作品として蘇らせようと2,3年前から取り掛かってこられたらしい。
そのどちらにも出会うことが出来て、私はなんと幸せ者だろう。
びんに旅をさせるというアンデルセンの高い創造性と、藤城さんの万感の思いが高い精度の一冊となって、大人になった私の心にまた静かに住み始めている。

今再読すると、このお話の流れのラストではびんと老婆は互いに知らぬままが良いのだと、それこそが人生の味わいなのだと、頷かずにいられない。
それぞれが精一杯生きてきて、それゆえに尊いのだから。

馬車に揺られて森に行く場面、夕日が沈む海、新月の夜の祭り、気球から落ちてかけらになるところ、鳥かごとおばあさん、最後の丘の上の屋敷まで、上質の美術本にうっとりして、その後じわじわとこみ上げるものがある。
藤城さん自身の言葉も後書きにあるので、そちらもぜひお読みあれ。
極上のワインをじっくりと堪能するような、そんな絵本。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本・通年
感想投稿日 : 2016年8月1日
読了日 : 2016年8月1日
本棚登録日 : 2016年7月27日

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コメント 6件

だいさんのコメント
2016/08/03

クオリア(記憶という意味で
市民ケーン(xanadu

そんなことを考えた

nejidonさんのレビューは 強烈でした

nejidonさんのコメント
2016/08/05

だいさん、こんばんは♪
コメントありがとうございます。
私ごときのこんなレビューに、なんて素敵な連想!
むしろだいさんの想像力に恐れ入ってしまいます(笑)
で、一体どこが強烈なのでしょう?
参考までに(笑)教えてくださいませ。

mkt99さんのコメント
2016/08/05

nejidonさん、こんにちわ!(^o^)/

なんて素敵なレビューなんでしょう!(^o^)

nejidonさんのレビューだけで印象的な光景とこの本の深い味わいが伝わってきます。

とりあえず自分はワインの方を先にじっくりと堪能することにします。あれっ!?(笑)

だいさんのコメント
2016/08/06

nejidonさん こんにちは
まず、長い しかし構成がうまい!
自分の感想 自分の体験と 本書の内容が 同期している (冒頭で)
幼児期へのフラッシュバックは 他人ことの陳腐な表現になりがちであるが ここでは同一感覚を味わえた
自分の体験記憶を感覚的に相手に伝えることは難しい
今回は衝撃が強かった

nejidonさんのコメント
2016/08/07

mkt99さん、こんにちは♪
コメントありがとうございます。
まぁぁぁ!褒めていただいて恐縮です。
自分ではどこが良いのか全く分かりません(笑)
たぶんこの本が本当に素敵なので、こういうレビューになったのだと思います。
出来ることなら、mkt99さんにもお読みいただきたいものです。

この夏、友人の誕生日祝いにこの本を送るつもりです。
自分でも手元に置いておきたい一冊です。
ええ、そうそう焼酎でも飲みながら・・あれ?

nejidonさんのコメント
2016/08/07

だいさん、再訪してくださってありがとうございます!
そ、そうですか?!
まさか褒めていただくとは夢にも思わなくて心底驚いています。
『強烈』というのは、どこかに言ってはいけないフレーズでもあるのかと、
眼を皿のようにして何度も読み返してしまいました・(笑
まさか&まさかの評価をいただいて、こちらこそだいさんのコメントに
花マルをさしあげたい気持ちです。
ありがとうございます。

レビューって難しいなぁと思う時があります。
「こうである」という事実と「こう思う」の感想とのバランスに悩みます。
ちょうど良い具合だと、本の内容が通じやすいように思いますね。

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