なんと懐かしい。読みながらどんどん記憶があふれ出した。
これは、私が子供の頃初めて読んだ、藤城清治さんの影絵本だ。
確か当時はモノクロだったと思う。
お話の初めに登場するお嬢さんと、最後に登場する老婆が同一人物で、せっかくぶどう酒びんと再会できたのに互いにそれを知らないというラストにひどく納得がいかなくて、心にひっかかったままだったのだ。
影絵の美しさとお話の不思議さ、そしてこのラストとで、長年心の奥に住み続けたお話。
藤城さんが26歳の時初めて世に出した影絵の絵本で、原作はアンデルセンの『びんの首』。
紆余曲折するびんの一生を、びん自身が語るというもの。
60枚すべての絵に、人生の喜びや悲しみやはかなさが照らし出されて、この不思議なお話に深い叙情性を与えている。
絵本デビューから60年目にあたる86歳の誕生日を目標に、カラー作品として蘇らせようと2,3年前から取り掛かってこられたらしい。
そのどちらにも出会うことが出来て、私はなんと幸せ者だろう。
びんに旅をさせるというアンデルセンの高い創造性と、藤城さんの万感の思いが高い精度の一冊となって、大人になった私の心にまた静かに住み始めている。
今再読すると、このお話の流れのラストではびんと老婆は互いに知らぬままが良いのだと、それこそが人生の味わいなのだと、頷かずにいられない。
それぞれが精一杯生きてきて、それゆえに尊いのだから。
馬車に揺られて森に行く場面、夕日が沈む海、新月の夜の祭り、気球から落ちてかけらになるところ、鳥かごとおばあさん、最後の丘の上の屋敷まで、上質の美術本にうっとりして、その後じわじわとこみ上げるものがある。
藤城さん自身の言葉も後書きにあるので、そちらもぜひお読みあれ。
極上のワインをじっくりと堪能するような、そんな絵本。
- 感想投稿日 : 2016年8月1日
- 読了日 : 2016年8月1日
- 本棚登録日 : 2016年7月27日
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