こうちゃん

著者 :
  • 河出書房新社 (2004年3月11日発売)
3.78
  • (58)
  • (43)
  • (88)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 463
感想 : 60
5

「こうちゃん」というのは誰なのでしょう。
男の子か、女の子か、何歳なのか。
その解説は一切ありません。
本の中にあるのは、酒井さんが解釈した「こうちゃん」の絵と、季節ごとの美しいささやかな風景。
須賀さんの紡ぐ言葉は、句読点の部分をひとマス開けたゆったりとしたやわらかな日本語。

79ページのこの本は「あなたは こうちゃんに あったことが ありますか」で始まり、
「あなたには みえなくても きこえなくても、きっと こうちゃんはどこかできいているのです。ちいさく あかるく わらいながら」で終わります。
そして時折、作者自身の記憶の扉を開けたような、イタリアの風景がはさまれています。

これというストーリーもないのに、何故こんなに「こうちゃん」の存在が鮮やかなのでしょう。
須賀さんの文章が、こつこつと心をノックするかのように響くのです。
どの場面にも登場する「こうちゃん」は、まるで季節の精なのか、それとも幻の中の誰かなのか。
それは、読んでみて味わっていただくしかありません。
ただ、不思議なのは、すぐ傍に「こうちゃん」の息づかいさえ聞こえてきそうな気がしてくるのです。
ごめんね、こんなに近くにいたのに、これまで気が付かなかったんだね。
思わずそうつぶやきたくなります。
いつの頃からか忘れ去った「こうちゃん」の存在。

小学校の低学年の頃、わたしには「ミーナ」という友だちがいました。
空想の中でだけ登場する友だちでした。
学校で嫌なことがあると、帰り道わざと遠回りして、空を見あげ、草や花を見てはミーナとお喋りしていました。
夜は「ミーナ」と書いた日記帳に、話しかけるように書いていました。
思えば、おかしな妄想のたまものです。それでも大事な大事な秘密の友だちでした。

その後、成長につれてミーナとは疎遠になっていきました。
こうちゃん、またわたしの前に現れてくれて、ありがとう。
大人向けの、繰り返し読んで抱きしめたくなるような本。
美しい装丁のこの一冊は、贈り物にも適しているように思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本・通年
感想投稿日 : 2010年2月19日
読了日 : 2008年9月22日
本棚登録日 : 2008年9月22日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする