4人の作家さんによるアンソロジー。
主人公はみな6年生で、誰かが誰かに本をすすめ、その本によって世界が拡がっていく。
小さな恋と友情が、甘酸っぱくて切なくて、鼻の奥がつーんとなる。
本の読み方・受け止め方も大人とはまるで違うのが興味深い。
1、「赤いコードロン・シムーン(森川成実)」
登場する本は「星の王子さま」「海に消えた星の王子さま」
2、「たそがれ時の魔法(高田由紀子)」
登場する本は「コンビニたそがれ堂」
3、「走っていくよ(松本聰美)」
登場する本は「ポケットのはらうた」「また、すぐに会えるから」
「オーパル ひとりぼっち」
4、「ぬすまれた時間と金色のパン(工藤純子)」
登場する本は「モモ」「ふたりはいっしょ」
6年生が主人公と言えど侮ってはいけない。どれも素晴らしい。
ケストナーの言葉を借りれば、子どもの悩みが大人より小さいなんてことは決してないのだと改めて知ることになった。
その時その場を、今よりもはるかに真剣に不器用に生きていた自分。
その年齢独特の、ものの見方・感じ方。
とっくに通り過ぎたはずの時代を、ふとふり返ってみたりする。
1番に登場する話のタイトル、ちょっと面白いでしょ。
これはサン・テグジュペリが乗っていた飛行機で、1930年にフランスのコードロン社が製造したのだという。シムーンは砂漠に吹く砂嵐のこと。
主人公の少年は、二日間で3回も「星の王子さま」を読む。
読む意味合いもその都度違い、読んで考えて、勧められた理由まで気づいていく。
3番目の「走っていくよ」が一番心に残るかな。
登場する「佐川さん」という女の子が、まるでその頃の自分のよう。
「詩は心の鍵」と言う言葉が出てくる。
「そのひとの心の鍵穴にぴったりと合うと、キーっと心が開いていくの。。」
工藤直子さんの優しい詩が読まれる場面があって、ここがとても良い。
「心がしぼんじゃった時、物語は読めないけど詩だったら読める」という言葉も。自分の本棚から同じ詩集を出して、私もゆっくり読んでみた。
作者さんたちは皆、人を見る目がとても優しい。
それが紹介する本とマッチして、読むことで新たなドラマが生まれていく。
どの子も、本が語る言葉をしっかり受け止めていく様子が書かれ、本は本来このような読み方をするものだと、考えさせられた。
良書があっても、友だちや先生などガイド役がいないと読む機会は訪れない。
どの子も、心の鍵にぴったりと合う本や詩に出会えるといいな。
なお、本書には同タイトルで「ざわめく教室編」もある。どちらもお勧め。
☆今年もお付き合いいただき、ありがとうございました。
新しい年が皆さんにとって、少しでも良いものでありますように。☆
- 感想投稿日 : 2020年12月30日
- 読了日 : 2020年12月30日
- 本棚登録日 : 2020年12月30日
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