バカのための読書術 (ちくま新書 280)

著者 :
  • 筑摩書房 (2001年1月1日発売)
3.18
  • (13)
  • (39)
  • (116)
  • (25)
  • (2)
本棚登録 : 542
感想 : 76
4

訴求力のあるタイトルで読者を掴もうとする試みだとしたら、かなり上手くいった本だ。
「バカ」の二文字で、もしや自分のことかと手に取る私のような人間もいるし。
ところが中身はしごくノーマルで、歴史を学びましょうという基本方針で語る読書術の本だ。

本書で言う「バカ」とは何か。
学校は出たけれど数学や哲学などの抽象的な思考がどうも苦手だというひとのことらしい。
「そうか、自分はバカだったのか・・!」と落胆することはない(私もしてない・笑)。
著者自身も「バカ」な部分を抱えている可能性を否定していない。
「無知」と「怠惰」は嫌いだが「難解な哲学などは分からない」という人に何とか学問の門戸を開こうとしているのが、この本だ。
気になるとしたら背後から袈裟がけに斬るようなその論調で、これはもう好き好きだろう。
私はあまり気にならない。
「言いにくいけど、実はちょっとそう思ってた」というところを盛大にぶった切るので何度もツボにはまり、大爆笑しながら読んだ。反論も相当あるだろうけど。
本邦初「読んではいけない本」リスト付き。
途中で放り出さずに最後まで読んでみてね。終章とあとがきが特にいいから。

第1章 「難解本」とのつきあい方
第2章 私の「知的生活の方法」
第3章 入門書の探し方
第4章 書評を信用しないこと
第5章 歴史をどう学ぶか
第6章 「文学」は無理に勉強しなくていい
終章 「意見」によって「事実」を捩じ曲げてはならない

極論のように見えても、それぞれ理由がある。
「読まなければいけないような気がする」程度で難解な本を無理に読むのはやめた方が良い。それよりももっと読むべき本があるという。
著者が薦めるのは歴史の概略がわかるもので、小説でも大河ドラマでも「面白い」と思えるもの。面白くなければ頭に入らないからだ。
歴史は蓄積がものを言う分野で年をとるのを恐れずに済む。
持って生まれた才能やひらめきが大切な数学や物理学とは、そこが違う。学者のデタラメを見抜けるし、知識があれば頭のいい相手を論破することも出来るのだと。

通俗心理学やインチキ現代思想、オカルト学問などの流行に惑わされず、「事実に就く」ことを指針とせよと、繰り返し述べている。
「事実」と「意見」を取り違えてはいけない、「意見」は「事実」の上にのみ建てられるものである。そのためにも「歴史に立ち返れ」ということだ。
ね?案外啓蒙主義的な内容なのですよ。

呉智英と渡辺昇一の読書論・勉強論対決や、著者近影を見て「お!」と思えば買って読めばいい、不純な動機でも恥じることはないとか、現代国語のつまらなさの理由とか、読んでいて面白い記事もいっぱい。
「バカのための年齢・性別古今東西小説ガイド」のリストなどは、死にそうなほど笑った。
「面白くなければ頭に入らない」というのを、著者自身がやってみせているのだ。

ブックガイドや書評と同じく、万人受けはしないかもしれない。
それでも「お!」と思う箇所があれば実行してみれば良いかと。
余談だが、本書の中で「村山由佳さん」の名が三度も登場する。実はファンなのかしらね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本にまつわる本
感想投稿日 : 2020年7月14日
読了日 : 2020年7月14日
本棚登録日 : 2020年7月14日

みんなの感想をみる

コメント 4件

goya626さんのコメント
2020/07/14

小谷野敦は、いろいろ読みました。この人ってちょっと斜めに構えているんだよなあ。
「華麗なる事件簿」は読んじゃいけません。気持ちの悪いエロさです。西澤保彦を読むのはもうやめとはならないと思いますけど。

nejidonさんのコメント
2020/07/14

goya626さん、誤解のないように言いますが、私は小谷野さんのファンではありませんから・笑
この本のテーマに賛同できる部分を見つけたということです。
ここはどうしても言っておかないと(-_-;)
はい、「華麗なる事件簿」は読まないと思います。
ひとにも薦めません。ご安心ください。

夜型さんのコメント
2020/07/15

小谷野さんはあまり好きではないのだけれど、この本は割と素直でよかったと思いました。
ポー推しのところもすごくよかったですね!

nejidonさんのコメント
2020/07/15

夜型さん、おはようございます(^^♪
そうですね、アンチがなぜ多いか改めて確認できました。
本の主張するところは賛同できるのですが、伝え方って大事なぁと・笑
でもお好みの方もいるかと思い、レビューすることにしました。
はい!ポー推しがちょっと感動しましたね。
大島弓子さんも推しで、そこは嬉しかったです!
今日は三浦哲郎さんを読みます。心が疲れたときに効くので。

ツイートする