ピスタチオ

著者 :
  • 筑摩書房 (2010年10月1日発売)
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本棚登録 : 1261
感想 : 224
5

一日の終わりに、今日は何度空を見上げたかな、と思う。
空を見上げて、風の方向を感じる。
風が強くても弱くても、空気の流れを感じるのが好きだ。
雲に閉ざされることがあっても、その向こうにある光を感じるのが好きだ。
そうして、緑が萌えたり大気が入れ替わるのを肌で感じるのが好きだ。

梨木さんの作品は、新しくページをめくるたびに不思議な懐かしさにあふれている。
そのことにいつも、驚かずにはいられない。
自分が語っているわけでもないのに、まるで自分がそこにいるかのように錯覚してしまう。
「棚」というペンネームを持つ主人公が、まるで導かれるようにアフリカにたどり着き、そしてまた水が流れるようにごく自然に人に会い、語り合い、その中で自分の役割に目覚めていく。
「符号」という言葉で作品のなかでは表現しているけれど、それって本当にあるものだ。

わたしが思いあぐねていたことや、何となく感じてはいるけれど言葉に表せなかったことなどが、見事に符号してこの作品のなかにある。
こんなにもシンパシーを感じて読める作家さんには、今後出会えないかも知れない。

「ピスタチオ」というのは、「棚」がアフリカで得た体験から生まれた、小さな物語のタイトル。
その物語の主人公の名前でもある。
最後に登場するこの物語が何故生まれたのか、きっと読み手は引き込まれて読むことになるだろう。
霊的な出会い、とでも言うような静かな感動が、読後に待ち構えている。
そしてそのときから自然に、目が樹木に向いてしまうだろう。
木に止まる鳥のさえずりに、耳を傾けてしまうだろう。
繰り返し読むことが決定してしまった、そんな一冊。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2010年11月6日
読了日 : 2010年11月3日
本棚登録日 : 2010年11月3日

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