ゆく河の流れは絶えずして (声にだすことばえほん)

著者 :
制作 : 齋藤孝 
  • ほるぷ出版 (2007年9月1日発売)
3.72
  • (6)
  • (3)
  • (8)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 106
感想 : 13
4

斉藤孝さんの「声に出す言葉絵本」シリーズの一冊。
『方丈記』というと、一生懸命暗記したことのあるひとも多いのではないだろうか。
有名な第一段の部分が絵本になっていて、しかも「無常観」を絵で表している(!)。
どうやって表しているの?と興味をもたれた方はぜひお読みあれ。
困ったことに、読み終えると続きが読みたくてうずうずしてくるのだ。

改めて読み返すと、当時はほとんど意味も分からず暗記していたことに気づかされる。
よどみない語り口の、その美しさとせつなさと、格調の高さ。
冒頭の部分がひとつの歌詞として流行歌のように流行ったというのも、頷けるというもの。

下賀茂神社の神官の息子として生まれながらも、20歳にして憧れだった父を亡くし、30歳までニートで、家庭内不和により家族を失う。
おまけに就活した結果はことごとくハズれたという長明は、裕福な家に生まれながらも凋落していったということになる。
大原に小さな庵を構えて住み、この庵の広さが四畳半(方丈)だったため、『方丈記』をあらわしたのが唯一の存在証明ということか。
とまあ、その程度の理解だったのが、今となっては恥ずかしい。

時代は平安から鎌倉へと移り行くとき。
貴族が勢力をふるった時代から、武士の世の中になった。
伝統は、どこまで失われたのか想像することも出来ないが、おそらくは真面目な長明さんは「ついていけない」心境だったのではないだろうか。
災害も非常に多く、二段以降はその描写がまるで災害報道のように大変多いと聞く。
「無常観」というのは、見方を変えれば辛いこと・苦しいこともいつかは流れていくということだ。
俯瞰する物事の見方で、当時のひとたちは大きな救いを得たのではないだろうか。

思えば東日本大震災のときも、じっと耐え忍ぶ被災地の人たちの姿が海外のメディアでは賞賛されたりもした。
心の底の嘆きまでは、画面では伝わりにくいということもあるが。
『方丈記』の精神は、あるいは日本人の心の部分に共通して流れるものなのかもしれない。

絵本化されたことで賛否両論あるかと思うが、子どもの頃から古典に親しむには、良い試みかもしれない。
素読することで、ますます古文の良さもわかることだろう。
巻末に現代語訳もついている。
約7分。高学年以上、かな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 絵本・通年
感想投稿日 : 2014年11月12日
読了日 : 2014年11月5日
本棚登録日 : 2014年11月4日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする