長年絵本の編集に携わってきた末盛千枝子さんの、10回に渡るセミナーをまとめたもの。
東京都渋谷のヒルサイドテラスで2008年4月から2009年3月まで開催されたという。
優しく親しみやすい言葉でつむがれる、壮大なブックトークのよう。
幸運なことに登場する本・映画はすべて既知のものだった。
私が好きなお話を、末盛さんも次々に絶賛される。
それが嬉しくて嬉しくて、読みながら何度胸の中でVサインを出したことやら。
お話は、編集のお仕事で出会った作家さんたちの話から入る。
ターシャ・テューダ、ゴフスタイン、ゾロトウ、など女性作家さんの生き方や人となりを紹介しながら作品のガイドもしていく。一緒にカメラにおさまった写真も。
ターシャの家には泊めていただいている。
羨望のあまり卒倒しそうだが、帰るに帰れない距離だったということだ。
何しろターシャの家の周囲30キロから40キロほどは、一軒の家もないらしい。
そこを開拓し、ひとり美しく住まうことなど到底できるものではない。
解説で、静かな中に確かな意志を秘めた人柄が伝わってくる。
ゴフスタインがキーツと親しかったことや、ゾロトウがセンダックの本の編集者だったことなどにも触れている。
ことに面白いのは安野光雅さんの講演で、こんなにお話好きな方だったのかと新発見。
人前で話なんて絶対しないよ。でも「即興詩人」の話なら別だよ。
というご本人の弁で、本当に鴎外の「即興詩人」の話をされている。
松浦弥太郎さんとの対談は「アレクサンドリア図書館」の話から入る。
末盛さんともども、長田弘さんを心底敬愛されているらしい。
良い話があったとしても、それを生かす優れた編集さんと出版社が存在しなければ本として完成しない。原本を見て、何としてもこれを生かしたいと苦労された話もたくさんある。
良い本と、伝えようとする意志と確かな技術。
そのどれもがあって、私たちの手元に良書が届く。
「美しい」という言葉が数多く登場する本書は、著者の生き方の反映のよう。
人間の生き方の中に本当の美しさを見据えて、それを出版を通して人びとに伝えようというお仕事なのだ。だから末盛ブックスは、みな美しい。
子どもの本には希望がなければいけない。
完全なハッピーエンドではなくとも、悲しんでいる子どもの傍に寄り添うこと。
将来に希望をつなぐ本に出会っていれば、大人になってからでもかなりのことに耐えていけるのではないか。大切なのは子どもの頃の刷り込みだ。
満ち足りた状態が幸せなのではなく、色々なことがあっても希望を失わないでいける。
人を愛していける。
幸せとはそういうことを言うのではないか。
甘いと笑われて私はずっとそう思い続けている。
末盛さんもまさに同様のことをお話されていて、あらためて深く安堵した。
自身の半生を語る中でも、いつの間にか本の紹介に繋がっていく。
どれもが宝石のように輝く、清々しい言葉たちだ。
各ページ下部に、登場する本のリスト付き。
子どもの本に関わる方、あるいは子どもの本がお好きな方。
絵本は子どもだけのものじゃないと知っている方全てにお勧め。
- 感想投稿日 : 2021年2月6日
- 読了日 : 2021年2月6日
- 本棚登録日 : 2021年2月6日
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