この本が、世界に存在することに (ダ・ヴィンチブックス)

著者 :
  • KADOKAWA(メディアファクトリー) (2005年5月1日発売)
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本棚登録 : 1228
感想 : 259
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本にまつわる9編の短編集。
普段だったら決して手を出さない類の本だが、読んでみることに。
それと言うのも「作家の本棚」と「古本道場」での角田光代さんに妙に親近感を抱いたからだ。
さて、作品はいかなるものか・・

と、その前に。この本、構成がちょっと凝っている。
ひとつの作品が終わるたびに、グレーをバックにした本の写真が現れる。
それも空中に投げ上げられた写真だ。
文字の配列も工夫があって、ある話は行間が広めにとってあり、またある話は狭かったり、頁の上部にぐぐっと余白があったり、下部に余白をたっぷり取ってあったり。
不思議なことにそれが、それぞれの作品の雰囲気を醸し出すのにひと役買っている。

せっかくだから「本棚」がベースの話と「古書店」が舞台の話があるといいなあと思っていたら、どちらもちゃんとあった。
同じ本に何度もめぐり会う話、好きなひとと同じ本が好きだった話、暗い因縁のある本の話、伝説の本を探す話、思い出の本屋さんに行く話、祖母に依頼された本の話・・
そのどれもが、有体に言えば本を通じた「自己再発見」のストーリーだ。
しかし直木賞作家さんは、そんな身も蓋もない表現はしない。
本に出会うことによって生じた内面の変化とその後を、実に細やかに描写していく。
そしてどの話も読後は爽やかだ。事件性もないし、悲劇もない。
うん、本にまつわる話はこうでなくちゃ。

最後に「あとがきエッセイ」があるが、これもまた一編の作品のようだ。
子供の頃から色々な本を読んできた角田さんが、唯一つまらなくて放り出したのが「星の王子さま」。しかし8年後、新たに手渡された同じ本に、いたく感動する。これはすごい、と。
そして「本は、ひとを呼ぶのだ」と言う。
「わたしを呼ぶ本を、一冊ずつ読んでいった方がいい。」

本好きなブク友さんたちは、きっと共感されるだろう。
この本があって良かった、と思える本に出会った時の喜び。
またこれからもこういった本に出会えるかもしれないという期待。
清々しい読後とともに、本がますます愛おしくなる一冊だ。
「引き出しの奥」と「さがしもの」が、それはそれは良かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本にまつわる本
感想投稿日 : 2020年5月18日
読了日 : 2020年5月18日
本棚登録日 : 2020年5月18日

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コメント 4件

夜型さんのコメント
2020/05/19

コメント欄が最近活況ですね!みなさん、純粋に本が好きだったんだな、とつくづく思いました。

nejidonさんのコメント
2020/05/19

ヨルガタさん、おはようございます(^^♪
お元気でお過ごしですか?
カタカナ表記にされたのですね。
ちょっと戸惑ってしまいました・笑
おかげさまで、皆さん本についてお話するのが本当にお好きなことが、
コメント欄で分かりますね。楽しいことになっています。
本に特化したお話なんて、リアルなお付き合いではなかなか出来ません。
コメント欄では日々読書会です。
また面白い本に出会いましたらいつでも教えてくださいね。

夜型さんのコメント
2020/05/19

nejidonさんおはようございます。
ちょっと素っ気ないかなと思い、でも名前変えるのは変かなと考えて表記を変えました。が、戻しました。
面白い本ではなくて読み応えがある本なら
京都大学図書館情報学研究会から出ていた読書と読者っていう本ですかね。すでに絶版で高騰しており、図書館で借りました。
続編も出ていますよ。こちらも絶版ですが。よろしかったらぜひ。

nejidonさんのコメント
2020/05/19

夜型さん、お名前を戻して下さってありがとうございます。
アイコンを見れば一目瞭然なんですけどね。一瞬??となりました・笑
はい、もちろん面白いとはinterestingの意味で「面白可笑しい」ではありません(^^;
その本は以前にもお薦めいただいたように思います。
すぐ検索したのですが、近隣ではどこにも見つけられなくて。
泣く泣く「入手できない本」というカテに入れてあります。
本がまだ、ワタクシを呼んでくれないようです。。
でも夜型さん、古典の「本を読む本」が今日手に入りました!!今すごく喜んでます。
これからゆっくり読んで参りますね。

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