本にまつわる9編の短編集。
普段だったら決して手を出さない類の本だが、読んでみることに。
それと言うのも「作家の本棚」と「古本道場」での角田光代さんに妙に親近感を抱いたからだ。
さて、作品はいかなるものか・・
と、その前に。この本、構成がちょっと凝っている。
ひとつの作品が終わるたびに、グレーをバックにした本の写真が現れる。
それも空中に投げ上げられた写真だ。
文字の配列も工夫があって、ある話は行間が広めにとってあり、またある話は狭かったり、頁の上部にぐぐっと余白があったり、下部に余白をたっぷり取ってあったり。
不思議なことにそれが、それぞれの作品の雰囲気を醸し出すのにひと役買っている。
せっかくだから「本棚」がベースの話と「古書店」が舞台の話があるといいなあと思っていたら、どちらもちゃんとあった。
同じ本に何度もめぐり会う話、好きなひとと同じ本が好きだった話、暗い因縁のある本の話、伝説の本を探す話、思い出の本屋さんに行く話、祖母に依頼された本の話・・
そのどれもが、有体に言えば本を通じた「自己再発見」のストーリーだ。
しかし直木賞作家さんは、そんな身も蓋もない表現はしない。
本に出会うことによって生じた内面の変化とその後を、実に細やかに描写していく。
そしてどの話も読後は爽やかだ。事件性もないし、悲劇もない。
うん、本にまつわる話はこうでなくちゃ。
最後に「あとがきエッセイ」があるが、これもまた一編の作品のようだ。
子供の頃から色々な本を読んできた角田さんが、唯一つまらなくて放り出したのが「星の王子さま」。しかし8年後、新たに手渡された同じ本に、いたく感動する。これはすごい、と。
そして「本は、ひとを呼ぶのだ」と言う。
「わたしを呼ぶ本を、一冊ずつ読んでいった方がいい。」
本好きなブク友さんたちは、きっと共感されるだろう。
この本があって良かった、と思える本に出会った時の喜び。
またこれからもこういった本に出会えるかもしれないという期待。
清々しい読後とともに、本がますます愛おしくなる一冊だ。
「引き出しの奥」と「さがしもの」が、それはそれは良かった。
- 感想投稿日 : 2020年5月18日
- 読了日 : 2020年5月18日
- 本棚登録日 : 2020年5月18日
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