楡家の人びと 下 (新潮文庫 き 4-7)

著者 :
  • 新潮社 (1995年1月20日発売)
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本棚登録 : 370
感想 : 25
5

ホテルのビュッフェみたいな作品。新しさ、面白さ、文章の美しさ、読み応え、あらゆる食に関する欲求をこの本は満たしてくれる。

病院ってのはすごいところだ。金と力と名声の集積地だね。祖父母が商売をしていたので分かる気がするけど、いい思いをすればそれが起点になるわけで、そうなるとマラソンの記録みたいにベストを更新していかない限り満たされなくなる。つまりいい思いをすればするほど「いずれ不幸になるかも」と感じる神経が鈍くなってより反動が大きくなる。楡家の人々は、基一郎に与えられ過ぎた分、不幸になっていると言い切っていいと思う。戦時中であることを差し引いても。

それにしても虚構に見栄を厚塗りしたような楡家の人々を清々しいほど滑稽に表現する作者の心意気は、実に痛快そのものだった。普通に表現すればいいものをあえてボロカスに言いまくるあたり、術中にはまった感あるけど本当ににやけるほどに面白かった。特に187項あたりから始まる米国と熊五郎のやりとりなんか最高だわ。

下巻から印象的だったのをいくつか抜粋

・峻一は一年ほど前から、とある飛行機マニアの同好会に入会していた。世間にはマニアと呼ばれる人種がざらにいる。飛行機に関しては峻一とそっくりの、彼よりも年下からずっと年長者までを含めた、主に横浜と東京に居住する十五、六名の飛行機気ちがいの小さな会があって…(51項)

・しかしそれは、たとえば以前にだしぬけにフルーツパーラーへ行こうと提案した時のように、弱者の追い詰められた短絡的な反応、一時的にかっとなった余裕のない反射に過ぎず、後に一層の自己嫌悪と絶望を残すのを常とした。(201項)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年5月11日
読了日 : 2018年5月11日
本棚登録日 : 2018年5月11日

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