中学生棋士 (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA (2017年9月8日発売)
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感想 : 16
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藤井聡太君フィーバー(この言い方って古い?)の後、関連本がどっと出たが、考察の深さという点ではこれがピカイチではなかろうか。自らも中学生でプロ棋士になった谷川九段が、才能というものについて考えを述べているのだが、これが非常に説得力がある。藤井君みたいな「天才」って生まれつきなのかと思いがちだけど、著者は、はっきりそうではないと言う。

「才能というと、何かキラキラと輝くイメージがあるが、むしろ、どろどろとした情念的なものだという気もする。
 情念や熱意に支えられ、継続的な鍛練を重ねたことで結実したものを、私たちは才能という言葉で説明しているのではないか。人間の才能を論じるときは、単に人には『向き不向きがある』ぐらいに考えた方がいい。
 早熟な才能とは、幼いうちに自分に向いていること、やりたいことがはっきり見つけられる能力ともいえる。 
 一つのことを長く続け、知識や経験を積み重ねていくこと。それも単なるルーティンワークではなく、日々新鮮な気持ちで取り組めること。しかも、それが苦にならない。
 才能といわれるものの本質はそういうところにあると思う」

なるほど、確かにそうかもしれない。「才能がある」人とは、天分があるだけでなく、自分に向いていることに出会い、それに並外れた情熱をもってとことん取り組める人のことを言うのだろう。将棋に限らず、スポーツや芸術の分野でも、幼い頃から鍛錬することの重要性が良く言われるが、打ち込めることに出会えるかどうかが大事なんだろう。「才能とは結局、自分が好きなことに時間を捧げることが苦にならない情熱の深さの度合いなのだ」ともある。紛れもない才能の持ち主が、実感的に述べている言葉だけに、深く腑に落ちるものがあった。

藤井聡太君に関して多くの筆が割かれているが、他の「中学生棋士」(加藤一二三・羽生善治・渡辺明)についても、著者にしか書けないだろうなという率直な記述があっておもしろい。羽生竜王が例外的に長くトップ棋士であり続けているのはなぜか、いくつかの要因を指摘しているところや、これに対して渡辺棋王が「自分の時代」を築けていないのはなぜかを考察しているところなど、非常に興味深かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・紀行・回想
感想投稿日 : 2018年12月5日
読了日 : 2018年12月4日
本棚登録日 : 2018年12月4日

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