ドラマ化されたと知り、本棚を捜索したら、あったあった。奥付には昭和六十二年三月発行とある。えーと…、三十年前?うわあ。
読み出したらこれがまあ面白くて、もう一気に読んでしまった。テレビ草創期の逸話が実に楽しい。特に生放送ゆえのアクシデントが爆笑もの。「にわとり」「終」の章で書かれている珍騒動なんか、ほとんどコントのようで、お腹が痛くなるくらい笑った。縛られて転がされてるニワトリとか、家族で団欒する刑事役の人と手錠でつながっていて必死で姿を隠そうとしている犯人役の人(鍵がどっか行っちゃったので)とか、みんな実際にテレビに映ったんだよなあ。見たかった-。
よく登場するご両親の話も良かった。黒柳さんはここでご両親を「パパ・ママ」と呼んでいる。常日頃いい歳したオトナがパパママはないだろうよと思っているのだが、あらまあどういうわけか、ここでは違和感がない。それどころか、そこにこめられた親愛の情に胸を打たれたりする。ご両親ともほんとうにステキな人だ。
全篇にわたり、黒柳さんのユニークな個性がなんとキラキラしていることか。テレビというものなどよく知らないままにすごい倍率の試験に合格し、たくさん失敗しながらも、運命的な出会いに導かれ、その才能を開花させていく。叱られたり非難されたりすることも多かったようだが、それ以上に多くの人に愛され大切にされてきたことが伝わってくる。
本当に感心するのは、普通こういうのを読むと、大なり小なり「ああ自慢話ね」と感じてしまうものだけど、そういうふうに全然思わないことだ。これはもう、ご本人にまったくそうした下卑た気持ちがないからだろう。妙な計算とか、読者への媚びとか一切なく、本当にすがすがしい文章で、その人柄がしのばれる。きっとこの文章のまま、あのテレビでのイメージのままの方なんだろうな。
あ、ただし、文章から感じられるものはテレビでの姿とは少し違う。物事を少し離れたところから見ているような、クレバーな雰囲気が強く感じられる。そこがこの本を単なる「思い出話」ではない、読みごたえのあるものにしているのだと思う。テレビ業界の喧噪や浮き沈みに揉まれながら、その本質をじっと見つめている眼を感じる。それが顕著なのがラストだ。え、こう終わるの?という驚きがある。著者はこの後もずっと「使い捨て」られずに今に至るわけで、とても感慨深い。
- 感想投稿日 : 2016年5月30日
- 読了日 : 2016年5月30日
- 本棚登録日 : 2016年5月30日
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