なぜ時代劇は滅びるのか (新潮新書)

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  • 新潮社 (2014年9月16日発売)
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感想 : 78
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いやあ、久しぶりに熱いのを読んだ! 高野秀行さんが「こんなに悲しくも面白いレポートは珍しい」と紹介していたのだが、まさにその通り。著者の悲憤がストレートに伝わってくる。

著者は1977年生まれ。おやまあその若さで時代劇研究家?と思うのだが、その「時代劇=高齢者向け」という状況こそが今日の惨状を招いたのだと著者は言う。若者が見ない番組に大手スポンサーはつかない。何故若者は時代劇を見ないのか? ずばり「つまらないから」。じゃあ、何故時代劇はつまらなくなったのか?

撮影所が下請け化し技術も停滞している・時代考証をやかましく言い立てることで表現が窮屈になっている・人気者に頼るドラマ作りで、時代劇をやれる役者がいない・プロデューサーも監督も脚本家も、時代劇というものをよく知らない人が多くなっている……、著者のあげる理由にはすこぶる説得力があって、こりゃほんとに時代劇は瀕死だなあと思わされる。

確かに近年の時代劇といえば、「水戸黄門」に代表されるお約束的ワンパターンのものばかりが思い浮かぶ。かつてはそうではなかった、現在を舞台にしたのではありえない絵空事になってしまうような、ギリギリの厳しい状況での人間ドラマを描ききった秀作が数多くあった、滅びようとしている時代劇について、ノスタルジーではなく語りたい、この思いを共有したい、という気持ちがほとばしる一冊だ。

俳優や監督、番組等について、名前を挙げて厳しく批判している。でもそれは「ためにする」ものではないから、イヤな感じがない。最終章に書かれた、このところのNHK大河への批判には、うなずくところが多かった。まったく「江」はひどかった。上野樹里ちゃんが主演するというものだから久しぶりに大河を見る気になったのに、なんじゃこりゃ~!これ本気?ギャグじゃないよね?って感じで。まあテレビドラマが見るに堪えないのは時代劇だけではないわけだけど。

このままだとそう遠くないうちに時代劇は死ぬと著者は言う。それでも自分なりにこの状況と闘いつつ、「春日。お前は間違っている!」と現場から(作品という形で)声が上がることを願っていると書かれていて、心からの言葉なのだと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ルポ・ガイド
感想投稿日 : 2014年10月21日
読了日 : 2014年10月21日
本棚登録日 : 2014年10月21日

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